『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』授業実践例紹介 長崎県立西陵高等学校 長池美佐先生
協働学習+個別最適化できる授業デザインを目指す
本稿では,「論理・表現」科目の授業をどう作っていけばよいかに焦点を当て,弊社教科書『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』の全国の高校の先生方の活用事例をシリーズ連載でご報告します。前回は「最初から完璧を求めすぎない 生徒の気づきを促す」授業の実践例を東京都立白鷗高等学校の柿崎伸樹先生に伺いました。
第5回となる今回は,前回に引き続き,昨秋弊社主催で行われたウェビナーから「協働学習+個別最適化できる授業デザイン」について,長崎県立西陵高等学校の実践例のご紹介です。
〇学校のご紹介
ご登壇いただいたのは,長崎県諫早市にある西陵高等学校の長池美佐(ながいけみさ)先生。こちらは創立38年目,県内で一番新しい公立高校です。1学年普通科6クラスで構成されており,生徒たちは,進学型単位制かつ2学期制の学校のカリキュラムに沿って,日々の学習や部活動に勤しんでいます。長池先生は昨年度,高校1年の担任をされながら,FACTBOOK教科書を用いた論理・表現Ⅰの授業運営を中心的に検討・実践されました。
ウェビナーでは,2022年度の授業の実践例について,最初にどのような考えでこの教科書を選び,学年の冒頭でどのような課題が見つかり,その課題をどのように解決に導かれたのか……を,時系列に沿ってご紹介いただきました。
①新学年開始前~導入期:「かっこいい教科書」だと思ったが,難しい!
<なぜFACTBOOKだったのか?>
長池先生によると,FACTBOOKという教科書を選んだ際の印象を一言で述べると「かっこいい教科書」。英語で英語を教えることができる新課程らしい内容で,とくに論理的な文章を書くことに主眼が置かれたコーナーである Thinking Logically を教えてみたいと思ったものの,実際に本校で使えるのかどうかというのは若干不安があったとのことです。ただ,一昨年度の3年生でも英検準1級に合格する生徒が複数名出るなど,入学時に比べて格段に英語力が伸びた生徒がいたことを重視し,「うちの生徒の伸びしろを信じて使ってみよう!」と,思い切って採用されました。
<導入期:4~6月>
FACTBOOK教科書を使った授業が始まった学年開始当初は,ひとまずマニュアル通りにListen→Speak→WriteとUnit内の3技能の活動を順番に行ったそうですが,これがなかなか機能しなかったとのことです。原因としては,タスクの理解が難しかったり,「スマートシティ」など扱っているテーマに生徒がぴんと来なかったりして,インプットにかなり苦慮してしまい,結果的に先生・生徒がお互いに少々ストレスがたまるような状態だったということです。
②授業デザイン変更:「反転授業」への挑戦
このような授業の課題に対応するために,本校では前期の早い段階で,授業のデザインを根本的に変えるための検討が行われました。同時期に,先生自身でICTの研修に参加し,そこで協働学習などの方法論を学んだことで,FACTBOOK教科書を用いた「文法の反転授業」という解決のためのアイデアが生まれました。反転授業を行うねらいとしては,「文法の時間を短縮し,アクティビティの時間を稼ぐ」,「自律的で,協働的で,深い学びを促す」などがありました。反転授業の導入にあたり,指導が効果的に行えるように,以下のような手順と教員向けのルールが設けられました。
手順
① あらかじめ配布した文法問題のプリントの解答を,動画で示した文法解説をヒントにして個人で考えてくる。
② 授業中にクラスメイトとの対話で答え合わせをする。答えそのものよりも「なぜその答えを導いたのか」を伝え合う。答え合わせの際にはどの生徒のところに行ってもよい。また,参考書,辞書,教科書,ネットで調べたことなど,伝え合いの資料としてはどの教材を使ってもよい。
③ 最後に教員による解説を手短に行う。
④ その日の夕方に,Microsoft Teams上に教員から解答が共有されるので,それを見て復習を行う。
教員向けのルール
① 事前学習用の動画は,授業の5日前にはアップロードする。
② 生徒の思考を促すために,解説の際に使う例文は,教科書に載っている例文をそのまま使わない。また,汎用性が高く,思考が楽しくなるような面白い話題の英文をできるだけ使う。
③ 動画の長さは20分以内とする。
④ 教員側が負担を感じすぎないように,動画作りに完璧は目指さない。
これらの決めごとのもと,論理・表現の授業前半の20~30分の時間を使い,生徒どうしの答え合わせから教員による文法解説までを行います。
長池先生によると,最初はハラハラしながら生徒の教え合いの様子を見守っていたとのことですが,最後の教員による解説の際には,生徒にも正しい知識への渇望感が生まれているので,生徒はより集中して聞くようになったようです。数回の反転授業を行った後,生徒にMicrosoft Formsでアンケートをとってみたところ,100%の生徒がこの方法が有効だと感じており,「このまま続けてほしい」「やめられたら困る」という声が相次ぎました。授業に臨む生徒の姿勢も,最初は予習をやってこなかった生徒もいたものの,予習なしでは授業中の会話の輪に入れないので,次第に必ず予習をしてくるように変わったとのことです。
💡ここがスゴイ! by編集部
・ウェビナーでは,生徒の「教え合い」の様子を録画した動画を観せていただきましたが,FACTBOOK準拠の文法参考書や自前のノートなど,さまざまなツールを手に取って,とても活発に話している様子が印象的でした。生徒間の伝え合いだけでなく,事前の解説動画,授業内の解説,事後の解答の共有と,ICTを活用しながら定着のための手厚い指導体制が作られています。
③反転授業導入後の授業運営:「統合→アウトプット」のサイクルで念願のアクティビティを実現!
このように反転授業を導入した効果として,7~9月の前期期末試験の期間には,従来は2~3時間かかっていた文法指導が1時間で終わるようになったとのことです。時間を捻出することができたので,7月から,少しずつアクティビティに時間を回すことができました。ただし,時間に余裕が生まれたとはいえ,週に2単位の論理・表現の授業の中でやれることにはどうしても限りがあります。そこで,論理・表現の時間内だけでアクティビティを完結させるのではなく,他教科や総合的な探究の時間などと連携して,できる限りのインプットとアウトプットの機会を設けることを意識しています。以下に,その例をいくつかご紹介します。
1. 総合的な探究の時間:事前研究→教科書のThinking Logicallyの活用へ
この時間を使い,7月に日本語による「カーボン・ニュートラル」のプレゼンテーションを行いました。後期に環境をテーマにした英作文を扱うので,その先行研究として,まずは日本語での活動を行いました。そして,後期の中間試験の期間(10~11月)にFACTBOOK教科書のThinking Logically 2, 3, 4をまとめて扱い,基本的な意見文の書き方やディスコース・マーカーの使い方などを学んだあと,環境問題をテーマに,前期の探究学習で調べたことをもとに英語のエッセイを書く活動を行いました。
さらに12月には,同じく総合的な探究の時間で「ふるさと教育」の学習を行いました。2022年度に長崎県の人口の減少率が全国一位だったことなど,地域が抱える問題点を学習し,それを踏まえて,論理・表現の時間では,「地域活性化」がテーマのThinking Logically 1を扱い,「長崎の好きなところ・変わってほしいところ」というテーマで英語のプレゼンテーションを行いました。
2. 教科横断:「現代の国語」との連携
他教科との連携も積極的に行っています。例えば,「現代の国語」の教科書内に日本文化にまつわる題材があったことと関連させ,国語で学習した内容を生かして「英語と日本語の違い」について英語で意見文を書かせ,プレゼンテーションを行いました。その際に,Thinking Logicallyで取り上げられている意見文のつくり方の「OREO」を指導しました。
3. 保護者面談:教科外の時間にあるアウトプットの機会
学校生活の中には,教科外の時間にも,生徒のアウトプットの育成に役立つイベントがあります。西陵高等学校では,保護者面談の場で,生徒は保護者に対してプレゼンテーションを行います。自身の希望の進路などについて自前のPowerPointスライドを作り,保護者に説明を行います。このような日本語によるプレゼンテーションの経験も,「発表」という技能の育成に役立っているとのことです。
💡ここがスゴイ! by編集部
・教科書のThinking Logicallyを扱うにあたって,順番通りに進めるのではなく,扱うテーマや指導したい技能をもとに,順番をアレンジしているのがユニークです。他教科横断型の活動を行うことで,論理・表現の時間内では与えきれないような豊富なインプットの機会を設けている点も,教科書で扱うテーマに対してより高次の思考を促すうえで大変有益な仕組みだと感じました。
④協働学習やアクティビティの実践を通して実感したこと:生徒の「へぇ~!」が聞こえる授業
新学年冒頭で浮かび上がった授業の課題,それを経ての授業デザインの改革,そして文法の反転学習や他教科と連携したアクティビティの実践を通して,長池先生は,さまざまな場面で生徒の成長を実感するようになったということです。
協働学習の中では,教員が「教えたい」と思うことを最初から教えることはせず,生徒どうしの対話の中で気づきを促すようにしているとのことです。生徒の教え合いの様子を見ていても,最初は反応が薄いものの,しばらくすると,教室のあちこちから「あ~!」「へぇ~!」など,教員からすると一番嬉しいことばが聞こえるとのこと。「そのような時にやりがいを強く感じる」と長池先生は仰いました。
ICTを導入したうえでアクティビティを行うことのメリットは,「メタ認知」のスキルが伸びることとのことです。2022年度はコロナ禍のピークだったこともあり,英語の授業内で活動を行う際に「マスクで声が聞き取れない」,「表情が読み取れない」といった問題がありましたが,そういったコミュニケーション上の問題は,生徒に自分の姿を録画して見直させることで,はじめて実感させることができたようです。また,FACTBOOK教科書にはプレゼンテーションなどの言語活動が多く入っていますが,実際にアクティビティの機会を重ねるごとに,生徒のスライド資料のつくり方など,事前準備が上手になっていったとのこと。さらに生徒から提出された動画を見ていても,アイコンタクトや資料の使い方といった「伝え方」のスキルがどんどん伸びてきているという効果が生まれたそうです。ウェビナーの最後で長池先生は,今後もこのような授業を通じて,論理・表現の「論理」の部分を大切にし,自分の考えをしっかりと伝えることができるcitizenshipを育成したいと述べられていました。
💡ここがスゴイ! by編集部
・学習指導要領解説では「プレゼンテーションを行う際は,写真や実物,ポスターやスライド,タブレット端末などの視覚的な補助を活用することで,聞き手の注意をひき,理解を深め,発表をより分かりやすくすることも効果的」だと明記されています。同時に,「自分の考えなどを聞き手に効果的に伝えることを意識した活動となるよう留意し,事前に書いた原稿をそのまま読み上げるだけに終始しないようにすることが重要」との記述もあり,「視覚資料の活用」と「聴衆が聞きやすい伝え方」の両方を指導することが求められています。先生が話してくださった「メタ認知の育成」はこのような理念に非常にマッチしており,論理・表現という科目において今後ますます重要性を増していく観点の一つと考えられます。

<画像はFACTBOOK教科書のプレゼンテーションコーナーの一部。教科書の中でも,視覚資料の活用を含めた伝え方のTipsを紹介しています。>
今回の記事では,長崎県立西陵高等学校の長池美佐先生の『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』授業の実践例をご紹介しました。本サイトでは,今後も論理・表現の授業にさまざまなアプローチで取り組んでいらっしゃる先生方の事例をシリーズでご紹介します。最後までお読みいただき,ありがとうございました。
<桐原書店・英語編集部>
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