『FACTBOOK論理・表現Ⅰ』授業実践例紹介 東京都立白鷗高等学校・附属中学校 柿崎伸樹先生

最初から完璧を求めすぎない 生徒の気づきを促す授業

本稿では,「論理・表現」科目の授業をどう作っていけばよいかに焦点を当て,弊社教科書『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』の全国の高校の先生方の活用事例をシリーズ連載でご報告します。前回はSmall Stepで生徒の「伝えたい!」を引き出す授業の実践例を西武学園文理高等学校の土屋進一先生・四十万俊幸に伺いました。

第4回となる今回は,前回に引き続き,昨秋弊社主催で行われたウェビナーから「最初から完璧を求めすぎない 生徒の気づきを促す授業」について,東京都立白鷗高等学校・附属中学校の実践例のご紹介です。

〇学校のご紹介
ご登壇いただいたのは,東京都台東区にある白鷗高等学校・附属中学校の柿崎伸樹(かきざきのぶき)先生。こちらは都立の中高一貫校です。「国際的に活躍する人材の育成」を教育目標にかかげ,文部科学省主導のWWLコンソーシアム事業の共同実施校や,東京都教育委員会が推進するGE-NET20指定校であり,充実した環境で英語教育に力を入れている学校です。柿崎先生は昨年度,第4学年(高校1年)の担任をされながら,FACTBOOK教科書を用いた論理・表現Ⅰの授業運営を中心的に検討・実践されました。

〇論理・表現Ⅰ授業の概要
同校では,論理・表現Ⅰは週2単位で開講されています。
1時間は教科書を用いた言語活動の授業を日本人教師とALTのTTで行い,もう1時間では副教材(文法参考書『FACTBOOK』準拠問題集)を用いた文法指導を日本人教師が行う時間に充てられています。
柿崎先生によると,同校の論理・表現の授業コンセプトを一言でまとめると「最初から完璧を求めない」ということだそうです。

旧課程では,生徒に言語活動をさせる際には事前に教員が丁寧に説明,例示,語彙指導を行ってからようやく活動を始めるというのが主な流れでしたが,現課程からは「目的・場面・状況」の共有を行った後,Round 1として「まずはやってみよう!」とすぐに言語活動に入るようにしています。このようにいきなり活動を始めると,生徒はうまくいかなかったり,生徒自身の中で疑問が湧いてきたりします。そこで,中間指導として教員からのサポートやインプットを与えて,その後にRound 2として同じタスクを実施するというのが,授業の基本の流れとなります。

〇単元ごとの授業構成
次に単元ごとの授業構成をご紹介します。同校の論理・表現Ⅰでは,下図のように,1単元(Unit)につき2時間分の言語活動の時間が設けられています。

・Small Talkについて
1時間目,2時間目ともに,授業の冒頭で教員がその単元についての簡単なOral IntroductionやOral Reviewを行った後,生徒どうしのペアによるSmall Talkを行っています。教科書のSmall Talkのコーナーには,単元ごとにやり取りを促すための質問が2つ示されていますが,1時間で同時に両方の質問を起点にした会話を行わせることはせずに,それぞれの時間で扱う質問を1つずつに分けているとのことです。ペアでのやり取りは2分間で行います。その後,話した内容についてReportingをさせて,クラス内でアイデアの共有を行います。

💡ここがスゴイ! by編集部
・教科書上は1つのコーナーであるSmall Talkの活動を2回の授業に分けて行うようにアレンジされています。こうすることで,毎授業の冒頭で,Speakingの本活動のウォームアップをしながらトピックへの興味・関心を喚起することができます。また,活動の機会を分割することで,1つの質問に集中して会話ができるようになっている点も,生徒が話す内容を考えやすくする方法としては有益と感じました。

・Listenについて
1時間目は,Small Talkの後にListenとListen Againの活動に移ります。教科書の流れに沿って,Listenでスクリプトの内容理解を行い,Listen AgainでCommunication Strategyの学習を行います。

・Speak①②について
1時間目ではSpeak①,2時間目ではSpeak②と,教科書内の2つのSpeakingのタスク活動を両方扱っています。Speak①②の活動の流れは共通しており,以下の通りです。

① Oral Introduction
まずは教科書のSpeakの「目的・場面・状況」を確認します。この内容を生徒自身が正確に理解していることが,この後の活動が成功するかどうかの鍵となります。

② Vocabulary Building
次に,教科書の“Key words and expressions for thinking”に掲載されている語彙の音声と意味を確認します。こちらは,この後に生徒がInformation Cardを読み解くのに必要な足場にもなるため,必ずSpeaking活動の事前に行います。

③ Round 1
①と②を行ったら,さっそくペアによる2分間のSpeaking活動を開始します。多くのペアがうまくいかずに,会話が行き詰ったり止まったりしてしまいますが,この段階ではそれでよしとしています。
やり取りが終わった後は,教科書内にある“Reflection”コーナーを使って“I was able to say(言えたこと)”と“I wanted to say(言いたかったが言えなかったこと)”を書かせます。この振り返り活動は,生徒自身が「自分の英語力」と「言いたいこと」とのギャップに気づく活動として,とても大切にしています。

④ 中間指導
生徒に振り返りを行わせた後,中間指導として教科書の“Useful Expressions”と“Model Dialogue”を扱います。ただしここでも時間を長くとって文法や表現を「教え込む」ことはせず,音読と簡単な説明をする程度にとどめているそうです。

⑤ Round 2
上記の中間指導を踏まえ,同じ活動をもう一度ペアで行わせます。Round 2はRound 1と同じRole設定にしています。2回同じRoleで活動を行わせることで,1回目はうまくいかなかった箇所が2回目ではうまくいく,という経験をさせることを狙いとしているとのことです。

⑥ Feedback
Round 2でうまく話せていたペアを選んで,その場で実演をしてもらい,それについて教員がコメントを与えます。ここでは,できるだけポジティブなフィードバックで終えるようにしているとのことです。1時間目はここで終了になります。

💡ここがスゴイ! by編集部
・Speakingの中間指導の段階では「教え込むことはしない」という点について,柿崎先生からは「この時間での学びは生徒それぞれです。単元で扱う文法事項に意識が向かう生徒もいれば,事前にListenで学んだ会話表現を使ってみようとする生徒もいます」とのコメントがありました。活動を行う時間は,文法や表現に「気づく」経験を大切にする一方で,週に1時間の文法指導の時間では,しっかりと体系的な学習が行われており,活動と文法を有機的につなげた授業展開であるように感じました。

・Writeについて
2時間目では,Speaking活動の後にWritingの活動に移ります。Speakingと同様に「目的・場面・状況」や語彙を確認した後,個人でのWritingに取り組ませます。書いた内容はグループワークで共有させ,生徒間での学び合いの機会を設けます。
グループワークの後,授業時間に余裕があれば,生徒に作文のRewriteを行わせます。残り時間が少ない場合,Rewriteはさせずに,教員が机間巡視を行い,うまく書けている生徒の作文をクラス内で共有するようにしています。

〇授業をしながらの改善点
ここまでは,基本的な授業の構成をご紹介してきましたが,ここからは,実際に授業を行う中で生徒の様子を見て浮かび上がってきた2つの課題とその解決策について,ウェビナー後半で柿崎先生が共有された内容をご紹介します。

課題①:Speaking活動での「読み上げ」問題
Speakingの活動を行う際に,生徒はRole AとRole Bに関するより詳細な情報を,巻末に示されているInformation Cardを見て確認する必要があります。活動を何回か行う中で,ある時,生徒が教科書を見ながらInformation Cardの内容を単純に読み上げている姿が柿崎先生の目に留まりました。せっかくの即興的な会話を行える機会にもかかわらず,生徒は相手ではなく教科書を見てしまい,自分で考えた表現を使うこともしない。つまり,本質的なコミュニケーションができていないことが課題となりました。

解決策①:Cheat Sheetの活用
上記の課題を解決するために,やり取りの活動に入る前に,生徒に2分間の準備時間を与えました。その間に生徒にはInformation Cardを読ませ,各自のノートに話すためのキーワードをメモさせた“Cheat Sheet”を作らせるようにしたとのことです。そして,話す内容に困ったら自分が作ったシートを見るように指示します。
これらの準備が完了したら,生徒には必ず教科書を閉じさせてから,活動に入ります。こうすることで,活動中の教科書の「読み上げ」が見られなくなり,相手の顔を見ながら,自分で考えた言葉で話す生徒の姿が戻ってきた,ということです。

課題②:教科書の話題から逸脱させたい!
課題①と通じる部分もありますが,Speakingの活動にはそれぞれのタスクの目標やInformation Cardで記載された設定があるため,生徒どうしのやり取りも「完全に自由な会話」とはなり得ないという前提があります。それはそれとしても,柿崎先生や同校の英語科の先生方の中で「教科書の話題から多少離れても,もっと純粋にやり取りを楽しんで欲しい!」という思いが湧いてきたとのことです。

解決策②:“Model Dialogue”として,日本人教員とALTとの協働で即興のやり取りを実演
前ぺージでは「Speaking活動の中間指導として“Useful Expressions”と“Model Dialogue”を扱う」と説明しましたが,このうち,教科書の内容をそのまま指導するのは“Useful Expressions”のみとし,“Model Dialogue”は,教科書を読ませるのではなく,日本人教員とALTが即興で演示するようにしました。この際には,タスクの達成を妨げない範囲で,意図的に教科書の内容から逸脱した会話を楽しんでいる様子を見せているとのことです。例えば,Unit 5では「文化祭で焼きそばを売った後の生徒どうしの会話」という設定のやり取りを行いますが,「売上金でみんなで打ち上げに行こうよ!」などの教科書には載っていない展開を足して見せるなどです。
このような自由度が高い会話例を見せていると,生徒も,「教科書本文の展開にこだわる必要はない」という意識を次第に持つようになり,タスクの内容に沿いつつも,より楽しみながらオリジナルの展開でやり取りをする様子が見えてきたとのことです。

〇パフォーマンステストの実践事例
また,ウェビナーの発表の最後には,昨年度に同校で行われたSpeakingのパフォーマンステストの実践例をご紹介いただきました。
昨年度は,2学期の中間考査後に,Unit 1-5の範囲でパフォーマンステストを実施したとのことです。それまでに使用した全UnitのSmall Talkのトピックを利用して,ペアの生徒に2分間の即興的なやり取りが継続できるかどうかを評価するテストが行われました。
下図のようなトピックを印刷したカードを作り,生徒はその場でカードを引いて,そのトピックについての会話を始めるという手順です。

評価に際しては,事前に生徒に提示していたルーブリックを用いて,テストに立ち会った日本人教員とALTとで共通の基準でスコアを付けていったとのことです。

💡ここがスゴイ! by編集部
・Speakのタスク活動ではなく,Small Talkを用いたパフォーマンステストを行うという点がユニークです。Speakではタスクの目標に達しているかどうか(task achievement)やInformation Cardの情報を適切に使えているかどうか,という評価基準が技能面に加えて必要になりますが,Small Talkを扱うことで,即興性やコミュニケーション方略など,より「話す技能」を中心とした評価を行うことができます。論理・表現という科目において,「Speaking活動において何を重視するか(生徒に何を期待するか)」によってパフォーマンステストの形もさまざまなものが考えられるという,非常に示唆に富んだ事例をご紹介いただきました。

今回の記事では,東京都立白鷗高等学校・附属中学校の柿崎伸樹先生の『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』授業の実践例をご紹介しました。本サイトでは,今後も論理・表現の授業にさまざまなアプローチで取り組んでいらっしゃる先生方の事例をシリーズでご紹介します。最後までお読みいただき,ありがとうございました。

<桐原書店・英語編集部>


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