『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』授業実践例紹介 長野県松本県ケ丘高等学校 羽賀規真先生

探究的・対話的学びで生徒の主体性を育む

本稿では,「論理・表現」科目の授業をどう作っていけばよいかに焦点を当て,弊社教科書『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』の全国の高校の先生方の活用事例をシリーズ連載でご報告します。前回は「アウトプット力+文法力」を伸ばす授業の実践例を順天中学・高等学校の浅輪先生に伺いました。

第2回となる今回は,前回に引き続き,昨秋弊社主催で行われたウェビナーから,探究的・対話的学びで生徒の主体性を育む授業について,長野県松本県ケ丘高等学校の実践例のご紹介です。


◯ 学校のご紹介
ご登壇いただいたのは,長野県松本市にある松本県ケ丘高等学校の羽賀規真(はがのりまさ)先生。今年度,創立100周年を迎える伝統校です。探究科2クラス,普通科6クラスで構成されている生徒たちは,3年間通じて行われる探究学習や,進学型単位制で組まれた多様なカリキュラムでの学習を通して,切磋琢磨し合いながら主体的な学びを行えるような環境で過ごしています。
羽賀先生はPBL(Project Based Learning:問題解決型学習)とSDGsとのかけ合わせを意識されながら,昨年度は新課程の高校1年の論理・表現Ⅰの教科担当として,授業運営を行われていました。

 英語の授業でめざすところ
松本県ケ丘高校では,生徒の提出物の管理や資料の共有にペーパーレス化を実施しており,学習クラウドサービスである「ロイロノート」を使用しています。学年の冒頭に,生徒自身が英語の授業を通じてつけたい力・なりたい姿を書き出して,それをロイロノートを通じて提出してもらい,生徒一人ひとりの年間の目標を可視化したそうです。
「英語のテストで良い点をとる」「長文が読めるようになる」と答える生徒もいれば,「自分で考えてそれを行動に移せる人になりたい」「コミュニケーションを大事にできる人になりたい」といったパーソナリティに関する目標を答える生徒もいたとのこと。これらの生徒の目標を教員間で共有し,年度初めの授業開きの日に生徒に提示するCan-Doリストにも反映させたとのことです。
また,ここで確認した生徒の個人目標を実際に達成できるように,目標を立てて終わりとはせずに,考査の後など,定期的に短時間の個人面談の場を設けました。そこでは,目標に対する現在の取り組みなどを聞き取り,生徒のモチベーションを維持できるようにしているようです。

💡ここがスゴイ! by編集部
・「教員から与えられた目標をどこまでこなせるか」ではなく,「生徒自身で目標を立て,その目標を教科の学習を通じてどのように達成するか」という視点で生徒の主体的な学びを促しています。また,目標を達成できるように,面談を通じて生徒の状況をつぶさに把握し,生徒と並走するような指導の仕組みがとられています。


 論理・表現Ⅰ授業の概要
松本県ケ丘高校では,論理・表現Ⅰは週2単位で開講されています。(*1時間の授業時間は55分)*2022年度時点。2023年度より50分授業に変更。
基本的にすべての時間で教科書を扱った指導が展開されます。
教科書のコーナーの使用状況としては,
Small Talk→Listen→Speak→Write→FACTBOOK GRAMMAR
と,扱う時間の軽重はあるものの,教科書の流れ通りに使用されています。
指導時は,まずはSpeakやWriteの活動を通して「伝えたかったが表現しきれなかった表現」を生徒に蓄積させ,それを自分の表現として獲得できるように補助することを意識されているそうです。

 Speaking / Writing指導の実際
 Speaking活動の中で行っていること,意識していること
指導前の課題:即興での「やり取り」を続けるには?
羽賀先生によると,生徒は準備・暗記したことを「発表」するのはある程度得意なものの,質問に応えたり会話を続けたりする際の即興的な「やり取り」の技能はまだまだ伸びしろが残されているそうです。

指導の工夫:トピックに関する表現だけでなく,汎用性の高い会話表現と会話技術を学ぶ。
まずは,FACTBOOK教科書の“Listen Again”のコーナーに会話に使える表現が紹介されているので,それをしっかり確認させているとのことです。それに加えて,1週間に1つずつALTがよく使う表現を生徒に紹介し,会話の技術と共に伝えているようです。例えば,話題を広げるために必要な5W1Hの疑問詞を板書し,各生徒がそれぞれ同じくらい会話に参加できる(equal participation)ようにアドバイスをしてから,活動に取り組ませます。これによって,ペアやグループの中で特定の生徒がずっと話し続けるようなことがなく,相手の発言に確認や応答を挟みながら,自分から話す姿勢が身につきます。


 Writing活動の中で行っていること,意識していること
指導前の課題:生徒はWritingタスクの見直しをどれほどしているのか? 
Writing指導の際に起こりがちな問題として,「生徒は作文テストの点数だけを見て終わりにしてしまう。内容や表現を見直さず,学びにつながるポイントを見過ごしてしまう。」ということがあります。

指導の工夫:Writingのテストを行うだけでなく,テスト明けの授業内での活動の素材として活用する。
上で挙げた課題を解決するために,松本県ケ丘高校では,テストで課したWriting問題の内容を使ってテスト明けの授業内の活動を行ったそうです。具体的には以下の流れです。
(1)Unit 1の「スマートシティ」のトピックに関連する論題として「理想のロボットを考えてロボットコンテストに申し込む」というWritingテストを定期考査で出題する。
(2)添削して生徒に返却する。添削の際には,添削コード(Correction Code:※下図参照)を使い,あえて代案や正答を示さないことで,生徒に「どのように修正できるか」を考えさせる。
(3)テスト後,返却された添削内容をもとに生徒は書き直し,清書した作文,自分で描いたイラストやインターネットで探してきた写真などのビジュアル資料を使って,各自が考えた「理想のロボット」のプレゼンテーション資料を作り,タブレットを用いてクラス内で説明し合う活動を行う。

<Correction Codeを使った添削例と発表活動の様子>

💡ここがスゴイ! by編集部
・即興的なやり取りのSpeaking能力を高めるために,教科書のListen Againの表現をしっかり確認するだけでなく,ALTとの協力によってさらに追加の表現を紹介されている点が印象的です。高校1年生の段階でさまざまな表現をストックしていくことで,生徒のその後の産出能力の成長に大きなプラスの効果が期待できるのではないかと感じました。
・Writingの指導において,テストで出題した内容をその後の授業内のアクティビティの素材として活用するという発想がユニークです。このように,英作文を「書いて終わり」とはせずに,「書き直す」経験を通じて,英文の構成や表現のスキルをより効果的に育成できるように感じました。また,「理想のロボット」について清書した内容をクラス内での発表活動に繋げることで,WritingとSpeakingの技能統合的な活動になっている点も印象的でした。


 Grammar指導の実際
ここまでご紹介してきたように,SpeakingやWritingの活動の時間を豊富に確保されている松本県ケ丘高校では,週に1コマのうち半分ほどの時間を文法指導に充てていたそうです。短い時間で有効に生徒に文法を学習させるための工夫として,Workbookに掲載されている文法解説動画を利用した反転学習が行われています。生徒には予習段階で動画の視聴を指示し,授業では,視聴してきた動画の内容をもとに生徒同士が先生になって,お互いにポイントを説明し合うペアワークを取り入れています。それぞれの発表内容を見とった先生が,最終的によくある間違い(common errors)の解説を行うことで,ペアワークではフォローしきれない正確な文法知識のレクチャーの機会も設けているとのことです。

〇 生徒による授業アンケート
これらの工夫にあふれた授業を受けて,実際に生徒はどのような感想を抱いたのでしょうか。この点について,ウェビナーの発表の最後に,羽賀先生より生徒に聞き取った授業アンケートの結果を共有していただきました。例えば,以下のような声があったようです。

・ペアワークやグループワークの時間が授業内にたくさんあって,友達と関わりながら授業が進んでいくのが楽しい。
・話すことも書くことも慣れてきた気がするけれど,自分が使っている表現が合っているのかどうかや,ほかに表現の仕方がないのかと考えることがある。
・グループ内で文法を説明するために準備するから,自分一人で問題を解いている時よりは予習をしっかりするようになった。

💡ここがスゴイ! by編集部
・「自分が使っている表現が合っているのか…」という生徒の意見に対して,羽賀先生の方から「現在はFluency(流暢さ)重視の指導になっています。今後,FluencyとAccuracy(正確さ)のバランスをどうとっていくのかが教師の課題です」という補足のコメントがありました。このように,教師→生徒の一方向的な授業ではなく,授業開きの目標設定から細かな指導内容に至るまで,教師と生徒が協同し,お互いの意見を尊重して授業を作り上げていくご姿勢がすばらしいと思いました。
・文法説明の一部を生徒に担ってもらうことで,生徒が責任感を持って予習に取り組んでくるという点が印象的でした。羽賀先生によると,「こうやってクラスメートに伝えたいのだけど,この説明で合っているのでしょうか」というように,生徒の質問の質も変わってきたということです。他者に伝えるという目的意識をもって文法を学習することで,ただ文法問題を解くだけでは見過ごしがちなことに気づけるようになる効果が期待できるのではないかと感じました。


今回の記事では,松本県ケ丘高等学校の羽賀規真先生の『FACTBOOK 論理・表現Ⅰ』授業の実践例をご紹介しました。本サイトでは,今後も「論理・表現」の授業にさまざまなアプローチで取り組んでいらっしゃる先生方の事例をシリーズでご紹介します。最後までお読みいただき,ありがとうございました。

<桐原書店・英語編集部>


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