探求 論理国語 付属教材・資料見本
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 「食」「死」「幸福」といった、本文から連想される主要なテーマは、江國作品においてはどのような意味を持っているか。以下の①~③に関連する文章を取り上げる。①江國作品の中の■食■参考資料晴れた空の下で評論Ⅰいと申し込んだ■おばあさん■が、認知症となり■時夫■のことを忘れ、一か月後にはいなくなる。■時夫■はこの現実をどう受けとめるのか。若いときには意識しない■老い■。しかし、人であるならばそれは必ず訪れる。それは■死■とつながり、肉体の衰えと認知症をはじめとした病によって、忌み嫌う対象となる。■ぼけてしまってかわいそう■、■歳はとりたくない■、皆そう感じている。しかし、老いたとき、人はどんな世界を生きるのか。老いることは本当に不幸なのか。幸福な老後とは。物語の最後、妻の死さえも忘れてしまった自分の衰えを自覚し、弱々しく次男の嫁に夕飯のメニューをリクエストする■わし■。その姿を、孤独な現実から幻想の世界へ逃避する老人の悲哀と読み取ることはもちろん可能だろう。しかし、 江國がその作品の中で描く幸福は、寒さから守られている、包まれている感覚であり、それは神といった絶対的な存在を信じることで生じるのではなく、幸福な瞬間をたくさん持つことによって生まれる自信と勇気によるものだと言う。(→「参 ■わし■は、妻の死を自覚し、その寂しさを紛らわすために、玉子焼きと手鞠麩の吸い物とともに幻想の世界に逃げるのではない。積み重ねてきた幸福な瞬間を再び生きようとしているのだ。■婆さん■とともに歩んだ人生から再び自信と勇気をもらい、今を生きようとしているのだ。少子高齢社会となり、介護をはじめとした老後に関する問題が山積する今、この小説は、自分の生き方と■老い■について、真■に考えを巡らす機会を与えてくれる。考資料③」)。〈知〉の深化      食はそれ自体、様々なレベルでセクシュアリティとジェンダーの力学が交差する磁場である。性別役割分業の根強い現代日本社会においては、炊事を含む家事労働は今なお女性が担うケースが圧倒的に多い。その一方で、摂食障害に苦しむ患者の大半は女性であると言われており、作り手としても食べる側としても、食と女性との関係性は今日ますます複雑化しているように見える。江國香織の短編集■温かなお皿■(理論社、02・1)は、その意味において、淡々とした文体とは裏腹に、幾ばくかの緊張感を内包するテクストである。どこかとぼけた風情の柳生まち子の挿絵が散りばめられたこの短編集には、食を通して浮かび上がる人間模様が一ダース収められている。そして後述するように、そこには食と女性の■れた関係性が描かれており、一見そうとは見えないが、たしかにフェミニズム的要素を孕んでいる。短編集の冒頭を飾るのは、下一段が犬用の三重段のお節料理を準備する新妻について夫の視点参か考ら資語る料■朱塗りの三段重■。次に、女子学生ばかりが住む教マン材のにテ切ーなくマ、や愛ら、し作い挿者絵・と平出易典な文の体理とが解相に俟っつて、教科書(三〇〜三三)らっと現れて、窓の下で笑ってくれる〉のを待つ律子の話■ラプンツェルたち■。両親の留守をいいことに〈身体に悪そう〉なごはんに舌鼓を打つ四人の兄弟の一夜を描いた■子供たちの晩■■。これらの賑やかな食卓の後には、玉子焼きと手鞠麩のおつゆを挟んで〈お■さん〉が〈去年の夏、カゼをこじらせて死んだ〉はずの〈ばあさん〉と対話する、温かくも切ない食の風景が配置されている(■晴れた空の下で■)。切なさは、少しずつトーンを変えていく。■さくらんぼパイ■の語り手〈僕〉の元妻・静枝は、家事は何一つ満足にできないが娘のためにお菓子を毎日手作りし、■藤島さんの来る日■の千春ちゃんは、実は料理上手だが〈奥さん〉のいる藤島さんのためには決して料理をしない。これらのぎこちない食の後には、《癒し系》の食模様が続く。婚約破棄した妹が異父姉の家の庭で昼食を取る■緑色のギンガムクロス■。同じ団地に住む三人の子供が書いた自由作文という形でそれぞれの母親像を浮かび上がらせた■南ヶ原団地A号棟■。孤独を持て余した夜に一人ひたすらねぎを刻む■ねぎを刻む■の〈私〉。娘と妻のいない休日に〈特性の焼きそば〉を作ろうと試みるものの、台所の使い方が分からず途方に暮れる■コスモスの咲く庭■の〈私〉。そして、愛人と正妻がイタリア料理店で対峙する■冬の日、防衛庁にて■を挟んで、ラストには、イブの夜からクリスマスの朝にかけてコンビニの深夜勤務にあたった〈俺〉に訪れたサプライズを描いた■とくべつな早朝■が置かれている。食を挟んで繰り広げられる人間模様は、時に楽しく、時41シ夕ョ飯ンを〈取ウりイつメつン、ズ今ハ朝イ喧ツ嘩〉しのた住ボ人ーたイちフとレ思ンいド思がない〈のふがる 懐資かこ料しれいらを風の掲景物を語げ見がまてどいこしるかたよノうス。なタ気ル分ジをッ喚ク起ですあるる。のは、

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