探求 論理国語 付属教材・資料見本
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解説〈知〉の深化 評論「いのちは誰のものか?」との関わり▼ともに生きる晴れた空の下で教科書(三〇〜三三)評論Ⅰ・ あなた自身は誰とともに生きつつあるると思う。例3  二つの文章から、人のからだといのちは社会的なものであると思う。 のか。例1  親や兄弟、祖父母といった家族とともに生きてきたが、学校生活で関わってきた人たち(クラスメート、先生等)とともに生きつつある。 例2  親友や部活動の仲間とともに生きつつある。例3  アルバイト先の同僚や雇用主とともに生きつつある。例4  先日付き合い始めた彼氏/彼女とともに生きつつある。例5  SNSでつながつた人やオンラインゲームの仲間とともに生きつつある。どちらの問いに対しても、人のからだもいのちも、他人との関係から離れては成立しない、他との交わりややりとりの中にあるという点が押さえられている解答ならばよいだろう。もし一つ目の問いに対して■やはり自分だけのものだと思う■という解答が出た場合は、そう考える理由をクラス全体で共有し、鷲田の主 張と丁寧に比べさせ、■ある留保■と所有論について再確認させたい。自分のからだといのちが決して自分だけのものではないという鷲田の論を正しく理解することが、孤立感を防ぎ、これからの社会生活に有益であることを理解させておきたいと思うからだ。二つ目の■誰とともに 生きつつあるか■という問いかけに対しては、新たな関係性を結んだ人物を挙げられるとよいだろう。ともに生きてきた家族と比べて、自分の世界が広がることで、より多くの人間とともに生きることになることに気づかせたい。例5の解答については、ゲームやSNSが■いのちの最も基礎的な場面■(二八・7)と言えるのかという点で賛否もあると思われる が、その繫がりが一過性のものや、自己利益に偏るものではなく、お互いを支え合える関係性であるならば、解答として許容できるのではないかと思われる。同時に、こうした新しいコミュニケーションツールを使用する場面においても、ともに生きていると感じられる関係性を築くことが出来れば、社会問題となっているネットやSNS上での■謗中傷、炎上等の問題を解決する糸口になる可能性もある。語彙のレベルが高く抽象性の高い評論を理解するためには、具体例が有効だ。しかしながら、今の高校生にとっては、本文中にある具体例や個々の持つ数少ない体験を材料にして、筆者の論を具体化し理解することはかなり難しい。そこで 登場するのが小説である。小説はフィクションであるが、その世 ■晴れた空の下で■は、年老いた■わ界は現実世界をベースとして描かれることも多い。今回の■深める手がかり■における学習は、評論文における筆者の主張、論理を具現化したものとして小説を位置づけ、その中味を読み取ることで、評論文の内容理解を更に深めていこうとする活動である。平たく言えば、小説を共通の具体例として読むのである。まず評論の方を確認すると、鷲田は■からだは誰のものか。いのちは誰のものか■という問いの成立のために、身体や生命はそもそも誰かに所有されるものなのであろうか、つまり所有されるべき物的対象なのかという問題を探る。■生命■に■ライフ■とルビを付け、■生命は他人と共同で維持されるもの■であり、■他人との関係から離れて生活(ライフ)というものは成り立たない■、食や性、育児や介護等の具体的な場面を見ればそ れは明らかだとする。身体が純粋に物的な対深象(め死る体手)とがしかて認り識されるのは、身体に宿っていた生命が亡きものとなったことを、「そ深の人めとるとも手にが生きかたり人々」のが認解答の例嫁でとあ、る■解妙答子さをん導■がく食た事のめ世の話をめた時であ解る説とをいう示指し摘はま、し我々たの。身体設問しをてく解れくていこると。食でともいうと基の礎的評な論場面と生命が自教分材だのけの読もみので取はりなくを、よともり深で■めわるし■このと生命がはで、■き妙子まさすん■。との関に生きる人々のものでもあることを得心させる。この鷲田の論は、江國の小説のどこに見ることができるのか。し■と■婆さん■との何気ない日常が描かれる。■食べることと生きることとの、区別がようつかんようになったのだ■という言葉や、桜の木を切ったことを忘れる■わし■、息子と孫を間違え、春の季節には早すぎる浴衣を着る■婆さん■の姿から、老いの真実(ボケ/痴呆)を感じながらも、二人がともに生きる姿は穏やかだ。しかし、物語は終わり近くになり、思いがけない展開を見せる。散歩から帰った■わし■は、■婆さん■が去年の夏に死んだことを思い出すのだ。ほのぼのとした二人での食事は、土手に桜を見に行った散歩は、現実だったのか、思い出の世界だったのか。■わし■はボケてしまっているのか。物語は■妙子さん■に介護されながら独りで暮らす■わし■の現実で結ばれる。現実世界においては、■婆さん■が亡くなるまでの長い年月を、■わし■は■婆さん■とともに生きてきた。■婆さん■が亡くなった今は、一人暮らしとなり、次男係で維持されている。39 

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