探求 論理国語 付属教材・資料見本
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ちている 「共感」から考えるヒトの進化﹄の中に、「進化論から考える﹃心﹄の誕生」と題された以下の文章があり、本文と重なるテーマを扱っている。チンパンジーは「おせっかい」をしない(長谷川眞理子﹃世界は美しくて不思議に満ちている 「共感」から考えるヒトの進化﹄)評論Ⅰ参考資料人間の脳には、他の動物にはない特殊な能力があります。それは、他者に「心」があると想定することです。では、「心」とは何か。それは、他者を動かしている原動力です。人間も動物も外からの刺激を受けると、その情報を脳で処理し、何らかの反応や行動を起こしますが、人間の脳はその過程に「心」が介在していると考えます。 これを「メンタライジング」と呼びます。「メンタライジング」があると世界はどう見えるでしょうか。たとえば、ヘビに出会ったカエルが一目散に逃げていくのを人間が見るとします。実際に起きているのは、カエルがヘビを認識し、それを脳で処理し、ジャンプしてヘビから離れていった、という過程なのですが、人間は「カエルがヘビを見て『恐い』と思ったから逃げていった」というストーリーにします。これが「メンタライジング」です。当のカエルはヘビに対して何か不快に感じるから逃げていくのでしょうが、それを見た他のカエルが、「あのカエルはヘビを見て『恐い』と思ったから逃げているのだな」とは考えません。しかし、人間は自分に「心」があることを知っていますし、他者に「心」を想定します。そして、他の動物にも、ときには無生物にもメンタライジングしてしまいます。これは人間固有の「心」の働きです。 「メンタライジング」は、他者に「心」を想定して他者の意図や行動を解釈しようとすることです。それと同時に、ここには「メタ認知」の要素も含まれています。つまり、自分がどんな心の状態のときにどのように行動するか、ということ自体を、自分で認識しているということです。このような「心」を持たない人間以外の動物にとなっがるいき資ま料す。をし掲かしげ、まサしバンたナ。は熱帯雨林に比べると厳て、他者の発するシグナルは、単にシグナルとしてとらえて反応すれば十分です。うなり声をあげ、毛を逆立てているネコがいたら、近くのネコは「あっちへ行け」というシグナルと受け取り、そこから離れる行動をとります。このネコが相手のネコに「心」を見いだす必要はないのです。なぜこのような「心」が人間に発生したのでしょうか。人間らしさを生み出す人間の複雑な心を担っているのは、大脳皮質の一部で、中でも前頭部に位置する前頭前野です。ヒトの脳は体重の二パーセントにも達していますが、こんな動物はほかにいません。中でも、前頭前野が大脳全体の二九パーセントも占めていますが、チンパンジーでは一七パーセントです。人類の系統とチンパンジーの系統が分かれたのはおよそ六〇〇万年前です。でも、当初は、人類の脳はそれほど大きくはありませんでした。約二〇〇万年前に、のちに私たちホモ・サピエンスを生むことになる「ホモ属」が出現しましたが、このころから脳がどんどん大きくなります。二〇〇万年前に何が起きたのでしょうか。人類の祖先が、そのころ、熱帯雨林を出てサバンナに移動していったことと関係があると思われます。六〇〇万年前ごろから地球は寒冷化し、アフリカでは乾燥化も進んで、熱帯雨林はだんだん縮小していきます。もともとチンパンジーなどと同じく熱帯雨林に住んで、豊富に実る果実などを食べてのんびり暮らしていた人類の祖教科書(一八〜二四)教材の先らはなテ、のー自か発、マ的二やに〇か〇、、万筆チ年者ン前パご・ンろ出ジかーら典とサののバ競ン理争ナ解にに負進にけ出つたしかてしい環境です。平原なので、外敵に見つけられやすい。サバンナでは水が少なく、食料は簡単には手に入りません。そこで、人類の祖先は、大きな集団を形成し、互いに協力して狩猟や採集などで食料を確保する必要にせまられたはずです。つまり、この状況で互いに「心」を共有し、協力することができなかった個体は滅び、協力がうまくできた個体の子孫が現在の人類に進化していったと考えられます。サル類は、互いに個体識別しながらつねに一緒に暮らしており、社会行動に関する脳の働きが発達しています。集団の規模が大きくなるほど処理すべき関係の数も増えますから、脳が大きくなる。これを「社会脳仮説」と呼びます。もともとこのような「社会脳」が発達していた人類の祖先ですが、それが、より困難な状況の中で社会関係を緊密にせざるを得なくなった。そこでは、相手の「心」を読める個体が有利になったでしょうが、そういう個体どうしが社会関係を持つようになると、その中でさらに「心」を深く読める個体が有利になり、そういう個体が増えれば、さらに深く読めるほうが有利になる、というように、「心の読み合い」の軍拡競争のようなことが起こるでしょう。13       

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