探求 論理国語 付属教材・資料見本
14/67

3発展…発展的な位置づけとなる解説や資料を豊富に掲げました。評論・随想(「体験と思索」単元)教材については、テーマをより深く理解するための解説を掲テーマ解説参考資料3発展テーマ解説チンパンジーは「おせっかい」をしない教科書(一八〜二四)「共感」がさほど広まっていないことの裏返しであろう。どうにも「共感」を抱けない相手もいる。そういう他者とどう付き合うのか。それが課題ではないのか。トマス・ホッブスは「人間は人間にとってのオオカミだ」とし、ダーウィンは自然淘汰という生存競争の存在を発見し、それを受けて、ハーバート・スペンサーは適者生存を言った。「共感」よりも「競争」が、私たちの現実ではないのか。 「きずな」という言葉が望まれ、「承認」要求があふれ、SNS上では「○○が好きな人とつながりたい」というハッシュタグが満ち、「利他」という言葉にも注目が集まっている。そしてそれは、それらが得られていない現象を反映している。東京オリンピック・パラリンピックのモットーは、「Uによる団結)」だったが、これも空疎な目標に過ぎず、 注目を集めることはなかった。実際、本教科書でも、そうした現実的な認識からスタートする評論をいくつか掲載している。山極寿一の「暴力はどこからきたか」、東浩紀の「ポストモダンと排除社会」などである。こうした視点から、本単元の「チンパンジーは『おせっかい』をしない」に対し、その認識の甘さを指摘評論Ⅰ①進化論から考える「心」の誕生本文の出典である﹃世界は美しくて不思議に満チンパンジーだって大したものだ。ステッキを使ってジュースを引き寄せようとするのは、道具の使用であり、容易な能力ではない。まして、その道具をやりとりするのは、他の多くの動物にはできない共同的、あるいは利他的な行為である。しかし、そんな彼らにも、ジュースを取ろうと手を伸ばしている仲間の状態を察し、要求されるまでもなくステッキを手渡すことは難しい。一方、私たち人間は、「認知的共感」に基づき、互いが気持ちを理解し合っているという確認のもとに、そういう「おせっかい」ができる。もちろん「おせっかい」は相手への手厚い配慮であり、温かい思いやりでもある。さらに、これに言語が加わることで、互いの共感は篤いものとなり、それに基づいて、物理的な問題も社会的な問題も解決され、最終的には、ヒトの繁栄をもたらすことができる。ことほどさように「共感」は素晴らしい。それは確かだ。しかしその「できる」という能力、あるいは可能性を私たちは十分に活用しているのか。げ ま「共し感た」が。強く求められる厳しい現状がある。それは          nited by Emotion (感情し、現実の厳しさを新たな起点として、その対策を考えるべきだという批判もあるかもしれない。学習指導要領によれば、「論理国語」の目標として「論理的に考える力」とともに「批判的に考える力」も挙げられている以上、そのような規範の対象として本文を読むことにも意義はあろう。しかし、それは長谷川眞理子もわかっている。本文を掲載した私たちもわかっている。「共感」だけではダメだ。その先で、そうした本来善なるヒトの能力を、正しい方向に向けて活用していかねばならない。しかし、ここでは取りあえず、そうした人間が持つ可能性を確認するに留めよう。とにかく「共感」を軸に、物理的にも社会的にもよきものを得てきたことは確かだ。それをひとまず確認していこう。私たちは、かくも素晴らしい能力と、豊かな可能性を秘めている。数多くの評論が並ぶ「論理国語」の最初の評論である。まずは元気を出していこう、私たちの可能性を信じよう、というわけである。12

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る