探求 古典探究 付属教材・資料見本
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単元の包括的なねらいと位置づけ、学習する教材の構成と特徴を示しました。ご授業に当たっての基本方針を立てる際などにご覧ください。単元のねらい単元の構成単元のねらい・能単に元なのる︒構ま成た︑まとまった分量の漢文を読むことによって︑訓中国の「史伝」は単に歴史の記述にとどまらない︒むしろ︑その記述の中心は︑人間界に起こる入り組んだ駆け引きや登場人物の複雑な心理描写にある︒主役も希代の英雄や善人だけとは限らない︒腹黒い悪人や巧みな手練手管で世の中を渡ってゆくこざかしい人間であることもしばしばである︒先の「史伝Ⅰ」では「史記」の中から「背水の陣」を学習したが︑本単元では︑さらに「史記」を詳しく読み味わうことを大きなねらいとする︒漢文に限らず文章読解においては精読と多読の二つを車の両輪としなければならない︒どちらか一方ではうまく走ることはできないのである︒幸いここで扱う教材はこの二つのトレーニングをするには格好の作品である︒漢文訓読の技術の習得と文構造への注意によって︑教科書に付された注釈の力を借りながらではあるが︑原文の筋はもとより︑表現の細かいニュアンスまで読み味わうことが可能であることを実感させたい︒本単元では︑史伝の中でもとりわけ有名な挿話を取り上げている︒秦末の英雄︑項羽と劉邦を中心とした劇的な場面の連続は︑「史記」の中では最大の山場であり︑それは後世中国の代名詞ともなる「漢」という大帝国が生まれる歴史の現場でもあった︒さらに︑二人を取り巻く人物もそれぞれに特徴を持って描かれており︑物語を読み進めるうえで興味深い存在である︒彼らは︑限られた状況の中でどのような思いを抱いていたのか︑いかなる選択を迫られ︑最終的にどのように行動していったのかなどを︑作品から読み取り想像していくことで︑広がりのある豊かな読解が可読に対する一定の自信も生徒には生まれるであろう︒中国の歴史叙述の基本形である紀伝体のスタイルを確立した「史記」の中から︑「鴻門之会」「四面楚歌」の二編を取り上げた︒「史記」全体においても︑最も劇的な場面として︑古くから広く親しまれている箇所である︒本教科書では︑特に「鴻門之会」について量的にまとまった文章を採録し︑全体の流れを原文でたどることができるよう工夫した︒また︑続く「四面楚歌」においても︑敗走する項羽軍のありさまから項羽自身の死までを収め︑項羽という一人の英雄の生涯を追いながら戦乱の歴史を考えていくことができるように配慮した︒劉邦を中心とした張良・樊噲たちの人間関係とその活躍︑それと対照的な項羽側の様子といった歴史展開から︑項羽がどのような終焉を迎えるかまで︑漢楚興亡のドラマを英雄たちの言動で読み進められる構成になっている︒ 「鴻門之会」は︑それぞれ小見出しの付けられた五つの部分から成るが︑歴史的会合となった「鴻門之会」に至るまでのいきさつ︑実際の宴における緊張感に満ちた駆け引き︑取り巻きの人々の思惑︑樊噲の登場による場面の変化など︑「鴻門之会」の始まりから終わりまでがつながりのある歴史の展開として読み取れるようになっている︒ 「四面楚歌」には︑「鴻門之会」における劉邦暗殺の機会を自ら遠ざけてしまった項羽が︑どのような結末を迎えるに至ったかが描かれている︒自己の力を頼み︑強大な勢力を擁した項羽が︑自身の凋落を「四面楚歌」によって認める部分は︑非常に印象的である︒項羽のうたう詩︑烏江の亭長とのやりとり︑壮絶な最期のありさまといった︑物語としての歴史を存分に味わわせたい︒    47鴻門之会四面楚歌史伝Ⅱ

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