探求 文学国語 付属教材・資料見本
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 ■山月記■には二つの■があり、これまでこの■を中心にさまざまな研究論が書かれてきた。高校生がこの作品を読むときにも、この■は明確な形で示され、その■解きにこの作品の魅力を感じるに違いない。当然のことながら、授業もこの二つの■を軸に進められ、ここからこの作品の主題を捉えようとする試みがなされるはずである。また、原典となった■人虎伝■との比較にも興味深いものがある。(■人虎伝■については二三ページ「参代の伝奇物語と二十世紀の近代小説との違いを比較対照することで、作者中島敦が■山月記■で表したかったものを考えることができよう。授業ではなかなか■人虎伝■に直接触れる余裕はないかもしれないが、教科書六〇ページ■比較で深める 為さんや■を参照させるなどして、その内容を解説することは意味があることであろう。李徴変身の理由が示されていると考えられる箇所は考資料①」参照)。■人虎伝■と■山月記■、すなわち唐謎一 なぜ李徴は虎になったのか生は乃ち君等と伍をである。これについてはさまざまな■山月記■論があり、定まった説はない。したがって、授業ではこの三点を挙げ、生徒にどれが一番なのか、という点を考えさせる形を取るべきであろう。ここでもそれぞれの解説をするにとどめたい。①については、問題なのが、■なぜ虎になったのか■という問いの答えではなく、■どうして今の身となるに至ったか■と尋ねられてのものであることである。つまりこれは、■誰か■に呼ばれて走るうちに虎になってしまった、なぜ虎になったのかはわからない、という説明の一環である。理由はわからないけれども■どんなことでも起こりうる■(五〇・3)のだからしかたがない、■我々生き物のさだめだ■というわけである。これをもって李徴変身の理由とするのには、いささか無理があるという考え方もあるだろう。ここに示されているのは、生の不条理である。この主題はカフカの■変身■などとも共通するものである。また、ここには作者中島敦の運命観が示されているとも考えられる。「作者略歴」および「参考資料③」などに示したが、作者は幼少の時代から家庭環境に恵まれず、また自身も若くして病魔に冒され、ほとんど無名なままで生涯を閉じることになる。我々は誰かによって与えられた運命を生きるしかない、という生の不条鑑賞      000   鑑 賞 0003 発展山月記教科書(四六〜五八)次の三つである。それぞれまとめながら示してみよう。①■理由もわからずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ■(五〇・5)  …逆らえない運命(生き物のさだめ)だったから。②■人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これがおれを損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、おれの外形をかくのごとく、内心にふさわしいものに変えてしまったのだ■(五四・12)  …心(臆病な自尊心と尊大な羞恥心)が虎だったから。③■本当は、まず、このことの方を先にお願いすべきだったのだ、おれが人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己の乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を落とすのだ■(五六・13)  …人間の心(妻子への愛)が欠けていたから。作品の中には以上の三点以外には見当たらないと思われるし、諸研究論でもこれら以外についての言及はほぼないようである。問題はその軽重の度合いである。三つのうちのどれが本質的な理由なのか、という問題小説Ⅰ小説Ⅰ小説Ⅱ3発展…発展的な位置づけとなる解説や資料を豊富に掲げました。文学教材については、作品をより深く鑑賞するための解説を掲げました。20

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