探求 文学国語 付属教材・資料見本
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作品を現代の作品として書き直す。しかし、生徒個々の小中学校での古典との関わりや古典に対する興味・関心の度合い、さらには■言語文化■の単位数・実時間数のばらつきなどを勘案すると、多くの生徒にとって、自ら古典作品を選ぶことはかなりハードルが高いように思 われる。その点を踏まえ、ここではクラスや生徒の情況に応じて■ステップ1■をスキップし、■ステップ2■から取り組ませる活動の実践例を、二時間配当の■手順a■ と、一時間配当の■手順b(短縮バージョン)■とに分けて示した。なおここでは、教科書六三ページ■活動のプロセス2 平家物語■木曽の最期■を、■ステップ3■における■ステップ1で選んだ古典作品■と見なし、活動を組み立てた。ところで、■文学国語■では、旧課程の■現代文B■などと比べ、■書くこと■の指導がより強く要請されている。しかし、 履修の当初から生徒に自分が思ったことや考えたことを吐露させたり、観察力や想像力を駆使して随筆や小説などの文学的な文章を書かせたりすることを強いるのは、かえって生徒を学びから遠ざけてしまうおそれがある。この点に関して、日本近現代文学の研究者である紅野謙介は、著書■国語教育混迷する改革■の中で次のように述べ  ている。  もし、四月を■書くこと■から始め るのであれば、自分の内面や意見を書くという枠組みから離れた方がいい。むしろ、自分からは遠く離れた対象に  ついて書く方がペンをとりやすいので  はないでしょうか。紅野の言を借りるなら、■自分から遠く離れた対象■である古典をもとに行う翻案活動は、書くことの学びの扉を開き、〈指導上の留意点〉自分の心の内面を捉え表出する第一歩と なるのかもしれない。そのような期待もあり、この活動はこの二時間(ないし一時間)で完結させず、物・構成・展開など)は変えず、作品中古典作品を翻案する■へとつなげ、学期末や学校行事の谷間の期間を活用するなどして、ステップ1〜3のフルバージ ョンで生徒に取り組ませてみたい。ワークシート(教科書データ集DVD-ROMに収録)、四百字詰め原稿用紙一枚。個別に次の課題1に取り組む。→1次に掲げるのは、■山月記■の中で、主人公李徴が虎に変身した自分の姿を見たときの場面である。 自分は初め目を信じなかった。次に、が水面に映る。これは自分なのだろうか。  ■おれは……■の一文と■ふと気がつくこれは夢に違いないと考えた。 このとき李徴が思ったことを想像し、後の例に倣って、李徴の心の中の言葉として表現しなさい。 おれは息をのみ、言葉を失った。ふと気がつくと、声をあげて笑っていた。(実際の生徒作品による)ここでは古典作品の翻案の前段階として、■山月記■の翻案に取り組ませる。翻案に際しては、原作の枠組み(設定・人の一場面における表現の一つ(ここでは自分が虎になったのを知ったときの李徴の心情)に着目して翻案させる。授業ではまず■もしあなたが作者なら、虎になるという事実と突きつけられたと 【資料Ⅰ】きの李徴の心をどのように表現します ■山月記■か■と生徒に問いかけ、■自分ならこう表  現する■という気持ちで、例文程度の分量で書き上げるよう指示する。その後、机間支援を行い、生徒に積極 [ 書き下し文]非慟すること良■■久し。的に声をかけ、■これは■と思った作品は [ 現代語訳]わたしはしばらくの間、悲(生徒の許諾を得たうえで)参考例としてクラスに紹介する。薄い霧の中、毛でびっしり覆われた顔 【資料Ⅱ】そう思ったとき、全身がわなわなと震えた。眼前で魚がとびはねる。と、同心円状に揺れる波で自分と思われる顔も見えなくなってしまった。むさ苦しい臭いが鼻をついた。課題1を踏まえ、個別に次の課題2に取り組む。→1次の【資料Ⅰ】は、李徴が虎に変身した自分の姿を見たときの場面について、■山月記■と、その原作である■人虎伝■とを対比したものである。また、【資料Ⅱ】は、課題1の例に対する批評文である。まず【資料Ⅰ】を読んで、■山月記■の作者がどのように原作の古典作品を翻案したかを考えたうえで、【資料Ⅱ】の批評文に倣い、考えたことを述べなさい。 自分は初め目を信じなかった。次に、これは夢に違いないと考えた。しんで声をあげて泣いたよ。語訳は■漢文名作選■によった。と……■の一文は地続きになっている(実際の生徒作品による)山月記準備物手順a  配当2時間第1時限1 教科書(四六〜五八)          例  小説Ⅰ小説Ⅰ小説Ⅱ ■人虎伝■課 題1 〈作品例〉課 題2 ※ 書き下し文は■国訳漢文大成■、現代162 

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