探求 文学国語 ダイジェスト版
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ぬき11うっ5こららこしらゆつうき 1物寺田理学寅者彦。 夏な目め漱そ石せの彦ひの筆名で随筆家とし一八七八~一門下生であり、吉よ村む冬ふても活躍した。猫を取り上げた作品も多い。「はそ、のど中う間いのう方方法法」か。と九三五。確か1寺て田だ寅と彦ひ氏の随筆に、猫のしっぽのことを書いたものがあって、猫にああいうしっぽがあるのは何の用をなすのかわからない、まったくあれは*無用の長物のように見える、人間の体にあんな邪魔物が付いていないのは幸せだ、というようなことが書いてあるのを読んだことがあるが、私はそれと反対で、自分にもああいう便利なものがあったならば、と思うことがしばしばである。猫好きの人は誰でも知っているように、猫は飼い主から名を呼ばれたとき、ニャアと鳴いて返事をするのが億お劫くであると、黙って、ちょっと尻尾の端を振って見せるのである。縁側などにうずくまって、前脚を行儀よく折り曲げ、眠るがごとく眠らざるがごとき表情をして、うつらうつらと日なたぼっこを楽しんでいるときなどに、試みに名を呼んでみたまえ、人間ならば、ええうるさい、人がせっかくよい気持ちにとろとろとしかかったところをと、*さも大儀そうな生返事をするか、でなければ狸た寝入りをするのであるが、猫は必ずその中間の方法を取り、尾をもって返事をする。それが、体のほかの部分はほとんど動かさず、―同時に耳をピクリと随想谷たに崎ざき潤じ一いち郎ろうゅん客ぎらい私は実にしばしば自分にも尻尾があったらなあと思い、猫を羨ましく感ずる―猫好きの筆者が、猫と自分を軽やかに語るエッセイです。1028457

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