探求 文学国語 ダイジェスト版
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言葉の手触りを楽しむさむいねああさむいね虫がないてるねああ虫がないてるねもうすぐ土の中だね土の中はいやだね痩せたね君もずゐぶん痩せたねどこがこんなに切ないんだらうね腹だらうかね腹とつたら死ぬだらうね死にたくはないねさむいねああ虫がないてるね(第百階級)草く野の心し平ぺ詩さんい秋の夜の会話  さて、ここで上に並べた二編の詩に目を向けてみよう。そこには「たのしい磔刑」というイメージが提示されたり、「どこがこんなに切ないんだらうね」という問いに対する、胸や心ではなく「腹だらうかね」という返事が提示されたりしている。先の短文の事例から見ると、意外な感をもたらしてくる表現ではある。けれども、みずみずしい生命力を宿した子供と背中合わせで寝床の中にいる幸福感や、「さむく」なり、ずいぶんと痩せてしまった自分の近くに死が訪れつつあることに対するしみるような感覚を、それぞれ「たのしい磔刑」、「腹」が「切ない」と表現していることは、そうした感覚にぴたりと当てはまっていると言わざるをえない。この時「磔刑」は「たのしい」という言葉と、「切ない」は「腹」という言葉と組み合わされることで、通常の意味や文脈とは異なる、でもそのような表現でなければ伝わらないものが私たちの生きている世界には確かに存在していることを証している。このように、普段何げなく使われている言葉が他の言葉と組み合わされたり、ある文脈の中に置かれたりすることによって、私たちの心を打つものに変貌する。そうした変貌が、個々の作品においてどのように表れているか、教科書掲載の詩を通じて見つけだそう。さらにそれらの詩の背後に、日常の世界に安住することに満足できない思いを抱いている人間の魂の高揚や震えを聴き出していこう。Ⅰ部「詩」単元に「詩コラム」を掲載。詩を味わうことの面白さ、奥深さを説いた文章によって、詩を学ぶ意義を伝えるとともに、韻文作品への関心を高めます。79 詩コラム53

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