探求 文学国語 ダイジェスト版
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1情ス報ク部ロ分ーをル 画面に表示させるために、表らりと目をやると、それはあの小説家の小説だった。何度も繰り返し読んだために変色してカバーも破れかけているその文庫本をしっかりとつかんで読み、ひとしきりそうした後、顔を上げてため息をついた。そのときに目が合った。わたしをちょっと見てから、残念ですね、と男性は言って文庫本の表紙をこちらに向けてみせた。わたしは電車の中で声をかけられたことにとても驚いたけれど、そうですね、と返事した。もっと、書いてほしかったです、と気がつけば言葉を続けていた。そうですね、と男性はうっすらと笑みを浮かべて文庫本に目を落とした。でも、すごくたくさん残してくれましたからねえ。もう十分、って気がしなくもないんですよ、と言って男性は笑った。だって、小説の数すごいですよ。それに、残ったものは、残った人間が、ずっと読み続けることができますよ。たくさん残してくれましたね、やっぱり。それから男性は黙り込み、読書の続きに戻っていった。コンピューターで、必要な2ヒール 示範囲を上下左右に移動させること。靴のかかと。小説Ⅳ別れた雨宮くんと十四年前に交わした約束のため、私は日曜日の朝に出かけた―揺れる私の心情を、記憶と場所をよすがに描いた小説です。169 日曜日はどこへ1510523

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