探求 文学国語 ダイジェスト版
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 0000けくち500「猿です。」「鮭さけです。」「いいえ、人魚です。」と、それは言った。「ううん、最後のが正しいよな。」と助す六ろが言った。「ほれ、もいっぺん言ってみな。おめえはいったい何だ?」「猿です。」「鮭です。」「いいえ、人魚です。」と、それは繰り返した。三者三様の主張は、すべて同じ口から出た。口は一つだし、その口は本来猿のものだった。「ああ、だめだだめだ。いいか、おめえは人魚だ。」「おめえら。」と、それが言い直した。「いいや。」助六はきっぱりと否定した。「おめえはおめえだ、断じておめえらじゃねえ。おめえは一人の、一匹の、一体の人魚だ。なぜなら、おめえが各々猿であり鮭であっれがおめえを人魚に仕立ててやってこそだ。つまり、おめえは人魚さ。」業台をのぞき込んで笑った。「助六、おめえいっこうに腕が上がんねえな。こりゃ当人も猿だの鮭だの言うわけだ、かわいそうに。」りをぽんとたたき、「さて、人魚だ。」と声をかけた。すると、その細工物は瞬時に目覚め、「確かに人魚だ。」と神妙に自己を肯定した。「こうだ。」と弥吉は助六を見た。すぐ隣で片膝を立てて仕事をしている弥や吉きが、助六の作弥吉は、自分の作業台に横たわった細工物の縫い目の辺小説Ⅲ藤ふじ野の可か織おりアイデンティティやたっ頃ては、、お猿れでにす*盾だ突のい鮭たでもすだの言のいとが口でをき利ているたのかも?だ な今、こおう1018小説Ⅲ 〈Ⅰ部〉96

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