探求 文学国語 ダイジェスト版
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  小道具と時代背景|①固定電話9 電話をかける人をジャンケンで決めたのはなぜだろう。彼女が「どっち?」と尋ねたのはなぜだろう。答えは簡単だ。「私たち」にとっては誰が電話に出るかわからないからであり、彼女にとってはかけてきた相手が誰かわからないからだ。だが、話を現代の若者のものとして考えれば、これらは起こりえない。今ならば、携帯電話の所有が当たり前だし、誰からかかってきたのかは、電話に出る前にディスプレイでわかってしまう。電話は、戦後急速に一般家庭に普及し、同時に公衆電話の設置も全国規模で進んだ。現在のように電話の個人所有が一般化するまでは、固定電話が家庭と社会をつなぐ出入り口としての機能を果たしていたのである。固定電話は、携帯電話やメールが一般化するまで、直接会話可能で最も即時性のあるメディアとしての役割を担っていた。また当時のテクノロジーの特性による痕跡が、多くの文学作品に見られる。例えば、家族を経由して相手を呼び出さなくてはならない煩雑性、通話時間に応じた料金制度、電話帳による電話番号の入手の容易さ、電話をかける側の痕跡が残りにくいことを利用した諸事件、固定電話によって限定された特殊な時空の占有、などである。文学を通じて、電話を取り巻く当時の感覚を想像してみよう。小説Ⅰ丹頂形公衆電話ボックス1954作品内の事物が映し出す時代背景を解説したコラムを配置しました。37 途中下車600形自動式卓上電話機1896デルビル磁石式電話機1963

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