探求 現代の国語/探求言語文化 付属教材・資料見本
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「羅生門」と、「今昔物語集」のこの話を読み比べ、その相違点について、次の項目ごとにまとめてみよう。読解答(今)盗みをするために上京した。(羅)餓死するか盗人になるかで葛藤して(今)すでに盗人である。(羅)夜を明かすために上層へ登る。比較で深める 羅城門の上層に登りて死人を見る盗人のこと解説芥川龍之介の翻案によって、どのように変化したか、話し合ってみよう。読・話指導への手がかり① 登場人物(男・老婆・死骸の女)の設教科書(二一七〜二一九)     ⇔     ⇔身分のある人と推測される。しかし、葬儀もできないところから、生前窮乏していたことがうかがえる。り押さえ、何をしていたか詰問する。     ⇔髪の毛を抜いていた理由を尋ねる。「ある勇気」が生まれ、老婆の衣服を奪い取る。     ⇔かり、衣類や抜いていた髪を奪い取る。示。     ⇔っていることを人に語る。その驚きが、男(羅)主家から暇を出され行く当てもない。定 1   ⇔  れた、東北の方角あたりになっていたようだ。羅城門はすでに倒壊していたようだが、都の中心から離れていたため、そのままうち捨てられ、「今昔物語」にあるように、葬儀を出せない者が、遺体を置きに来たり、幽霊が出る噂が立ったり、あるいは、盗賊など悪い連中が出入りしたりする場所になっていたのであろう。◆◆◆ (矢印の右側を「羅生門(羅)」、左側を「今昔物語(今)」とし、対比している。)     ⇔いる。     ⇔(今)人に姿を見られまいとして上層へ登老婆(嫗)(羅)外見の特徴について、比喩を多用し(今)外見について簡潔に説明している。(羅)かつらの材料とするため、女の髪を(今)女主人の遺体を捨てに来た。死骸の女(羅)疫病で死んだ物売り。・ 檜皮色の着物を着た、背の低い、瘦・ 鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕。・ まぶたの赤くなった、肉食鳥のよう・ しわでほとんど鼻と一つになった唇。・ 年いみじく老いたる嫗の、白髪白き     る。て詳細に描写し、醜悪で不気味な印象を与えている。せた、白髪頭の、猿のような老母。・おしのように執拗く黙っている。な、鋭い目。・からすの鳴くような声。・蟇のつぶやくような声。     ⇔  抜きに来た。     ⇔(今)嫗の主人。(羅)生前蛇を干し魚と偽って売っていた。 (今)嫗が敬語を多用しているところから、「羅生門」では男は初めは悪人ではないが、②男と老婆のやりとり(羅)激しい憎悪を感じたので、老婆を取(今)正体を見極めるため、斬りかかり、ら行く末を悩んでいた下人が、最終的に(羅)老婆の自己を正当化する論理に、(今)亡霊ではなく普通の老婆であるとわ③事件の結末(羅)男が盗人になったであろうことを暗(今)盗人は羅城門が遺体の捨て場所にな近代の小説「今昔物語集」編者が本話を採録した動機になっていると考えられる。悪事を働くという観点から見ると、登場人物設定は正反対である。つまり、老婆と死骸の女は悪人である。これは下人の再生物語に必要だからであろう。また、老婆の話の受け取り方も違う。「羅生門」では、老婆の自己弁護の理屈が老婆への悪事に転用できたため、犯行に及ぶが、「今昔」では、亡霊ではないとわかり、恐怖心が消えたため、犯行に及ぶ。事件の結末は、「羅生門」では、冒頭か自分の生き方をつかみ取るというものである。しかし、「今昔」の方は、羅城門というかつての平安京のランドマーク的な建物に、死体がたくさん捨てられているという衝撃的な事実に対する驚きが、世間の人々にこの話を広めさせたのだという、採録の背景を補う内容になっている。2「今昔物語集」のこの話の主題は話し合う内容は教科書に掲載された二◆◆◆深めよう深めよう103*言語文化 指導資料(近代以降の文章編)

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