探求 現代の国語 ダイジェスト版
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       Iwas born 確か 英語を習い始めて間もない頃だ。 或ある夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくとる。物憂げに ゆっくりと。 女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼めを離さなかった。頭を下にした胎児のごめきを 腹のあたりに連想し 女はゆき過ぎた。 少年の思いは飛躍しやすい。その時した。僕は興奮して父に話しかけた。――やっぱり父は怪けそうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。――げん                それがやがて 僕は〈生まれる〉ということがょう I I (「レオーノフの帽子屋」参考)was born なんだね――was born さ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね―― 青い夕ゆ靄もの奥から浮き出るように 世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。吉よ野の弘ひろし 白い女がこちらへやってく まさしく〈受身〉である訳を 柔軟なう ふと諒り解かやう し い51014645寺で身重の女を見た「僕」は、生の「受身」に思い至り、父に話しかける―生にまつわる「受身」「意志」を考えます。体体験験とと思思索索ⅡⅡ

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