探求 現代の国語 ダイジェスト版
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包む対象の大きさや形態、使用する場面によって、その包み方はさまざま。箸のようなものにこそ、世界に誇るべき日本のデザインが豊かに潜んでいるのですから。 もう一つ、忘れてならないのが「ふろしき」です。何1十通りもの包み方があり、あらゆる包む対象に合わせた対応が可能なばかりか、使わないときには小さく畳んでおける。つまり自由自在に変化できる一枚の布の状態に留めてあるわけで、それ以上はデザインしていません。バッグのように持ち手を付けたり袋状に縫ったりはあえてせずに、どこまでも原型を保ったまま使われ続けている。我々が何もかもを便利至上に走っていたのであれば、すでに息絶えてしまってもおかしくなかった道具の一つなのかもしれません。しかし人間の側に備わっている「考える」力や「適応する」力を引き出す余地をたっぷり残した「ふろしき」という一枚の布が、宅配便で何でも便利に届くこの時代にまでちゃんと残っていること自体が注目に値します。これも、やり過ぎないほどほどのデザインの典型なのです。改めて申し上げるまでもなく、一枚の正方形の布であるがゆえに、「ふろしき」に施されるグ2ラフィック・デザインは無限の可能性に満ちている。今の時代、もっともっと便利さを求めてその場その場に合わせたさまざまな形態を作り出しているのですが、ある意味で不便な一枚の布が、ほどほどなところで留められたことによって、無限と言いたいほど表現可能なキ3ャンバスになっている。また、少しばかり昔の日本の生活を思い出してみるなら、普段は折り畳んでしまい、使うときだけパタパタと51何十通りもの包み方151030すいか包みお使い包み瓶二本包み13評評論論ⅠⅠ

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