探求 現代の国語 ダイジェスト版
10/60

 言葉は、気持ちや事実を伝えるために生まれた道具だ。人によってちょっとずつ違うものを、簡略化して、互いに理解できる形に変える。そういう、とても大切な道具。とても、危なっかしい道具。言葉にするだけで、簡単にいろんなことが切り捨てられていく。その人だけの、ささいなこと、あいまいなことが、四捨五入みたいに消えていくんだ。どこまでも意味と紐ひ付づいているからこそ、使うだけで、言葉はその人だけの感情を押しつぶして少しずつ消していく。そして、それでも私は、言葉を書く仕事をしている。 私は詩人です。小説や新聞の言葉が、物語や情報を伝えるために書かれるのに対し、詩にはそうした目的がない。そして、だからこそ私は、言葉によって切り捨てられてきたものを、詩の言葉でならすくいだせると信じている。詩の言葉は、理解されることを必要としていない。人によっては意味不明に見えるだろうけれど、でも、だからこそその人にしか出てこない言葉がそのまま、生き延びている。私はそうした言葉がかわいくて仕方がなかった。わからない言葉であればあるほど、その人はその人だけの人生を生きてきたんだと、はっきりと知ることができるから。そうした言葉はきっと、詩人でなくても、詩という形でなくても、誰にだって眠5も81010〈〈知知〉〉ののココミミュュニニテティィへへ

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る