探求 言語文化 ダイジェスト版
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古典世界    夢とは、眠っている時に自分自身の記憶や体験が再構成されたものであると、私たち現代人は考えます。しかし、昔の人々の捉え方は違いました。彼らにとって夢とは、神仏や霊など人間以外の者たちが住む世界に対して開かれた窓でした(▼1⃝)。夢の中でなら、そうした者たちと接触でき、そのメッセージを受け取ることもできると考えられていたのです。 「鷹使いの見た夢」の話でいうと、鳥の霊との接触です。夢の中でなら、動物の霊とも話ができるのです。鷹使いは、夢を通じて雌のおしどりの悲しみを告げられることで、自分の犯した罪の重さを悟ります。 夢はまた、遠く離れた人間どうしを結びつけるとも考えられました。恋人を夢に見ることを、現代人は自分の恋心が作り出したものと理解します。しかし古代の人たちは、眠っている間に相手の魂が体を抜け出して自分の所にやって来る(▼2⃝)、あるいは自分の魂が相手の元に向かって行く(▼3⃝)のだと信じました。『万葉集』にはそうした歌が数多く収められています。 ちなみに、現代では、夢を「未来への希望」の比喩で使うことも多いのですが、これは近代以後に加わった新しい意味です。それ以前は、もっぱら、「はかないもの、不確かなもの」の比喩として使われていました。ビュー|②夢    古文入門 26夢に観音が現れる(石山寺縁起絵巻)10

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