探求 現代の国語・言語文化 国語教科書のご案内
34/48

らみくら臥ふしたるあり。その枕ま上がに火をともして、年いみじく老いたる嫗おうなの、白るじつら色いの着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である。その老婆は、古典老手婆をとはか、けの松るのとつ木、切ちなれょをうが、ど床、り板猿ののか間親にがら挿猿しの読て子、のみそ虱しれ解をか取らくる、よ今「うまにで近、眺そめ代のて長いのいた髪死小の骸毛の説を首一に」両本右の手に火をともした松の木切れを持って、その死骸の一つの顔をのぞき込むように眺めていた。髪の毛の長いところをみると、たぶん女の死骸であろう。 下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は息をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭1身の毛も太る」ように感じたのである。すると、ずつ抜き始めた。髪は手に従って抜けるらしい。 その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えていった。そうして、それと同時に、この老婆に対する激しい憎悪が、少しずつ動いてきた。|︱いや、この老婆に対するといっては、語弊があるかもしれない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分ごとに強さを増してきたのである。このとき、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、飢え死にをするか盗人になるかという問題を、改めて持ち出したら、おそらく下人は、何の未練もなく、飢え死にを選んだことであろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木切れのように、勢いよく燃え上がりだしていたのである。うして聖柄の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩み寄った。老婆が驚いたのは言うまでもない。 老婆は、ひと目下人を見ると、まるで2い弩しゆみにでもはじかれたように、飛び上がった。髪の毛を抜くかわからなかった。したがって、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くということが、そ7れだけですでに許すべからざる悪であった。もちろん、下人は、さっきまで、自分が、盗人になる気でいたことなぞは、とうに忘れているのである。きなり、はしごから上へ飛び上がった。そ7「それだけですでに許 盗人、「あやし。」と思ひて、1連れ子じよりのぞきければ、若き女の、死にて髪白きが、その死人の枕上にゐて、死人の髪をか2なぐり抜き取るなりけり。 盗人これを見るに、心3も得ねば、「これはもし鬼にやあらむ。」と思ひて恐ろしけれども、「もし死4人にてもぞある。脅して試みむ。」と思ひて、やはら戸を開けて、刀を抜きて、 「おのれは、おのれは。」と言ひて走り寄りければ、嫗、手5惑ひをして、手を摺すりて惑へば、盗人、 「こは何ぞの嫗の、かくはしゐたるぞ。」と問ひければ、嫗、 「おのれが主あにておはしましつる人の失うせたまへるを、あ6つかふ人のなければ、かくて置きたてまつりたるなり。その御おほむ髪かみの丈7に余りて長ければ、それを抜き取りて鬘かにせむとて抜くなり。助けたまへ。」と言ひければ、盗人、死人の着たる衣きぬと嫗の着たる衣と、抜き取りてある髪とを奪ばひ取りて、下おり走りて逃げて去りにけり。 さてその上の層こには死人の骸骨ぞ多かりける。死8にたる人の、葬はうぶりなどえせぬをば、この門の上にぞ置きける。 このことは、その盗人の人に語りけるを聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。深める手がかり1う 「に男呼」(ばれ二一て七・い1る)かは、、抜こきの出後しのて本み文よ中うで。どのよ2説 「明嫗し」てがみ羅よ城う門。の上層にやって来た目的は何か、っ 本たこ文と中がかわらか当る時かの、羅説城明門しはどてみのよようう。な場所であ(巻第二十九第十八)てみよう。2  ③こ 芥の 事 男 登話川件と場の龍の老人主之結婆題物介末のは(のや男ど翻り・の案とよ老にりう婆よに・っ死変て骸化、「のし今女た昔)か物、の語設話集定し」合のってみよう。深め1よう べ 「、羅そ生の門相」違と点、「につ今い昔て物、語次集の」項の目こごのと話にをま読とみめ比ち付けた 窓。何本もの細木を縦または横に打連子2かなぐり抜き取るなりけり手荒く抜き取っているのだっ訳た  な。んと訳  納得がいかないので。3心も得ねば4死人にてもぞある訳  死んだ人の霊だと困る。5手惑ひ慌てふためくこと。6あつかふ人葬儀をする人。7丈に余りて長ければ訳  背丈以上に長いので。8死にたる人の、葬りなどえせぬ訳  死んだ人で、葬儀などできない人。5* 3し ろ51ぼみん  1頭身の毛も太る事の異様さに非常な恐れ を集」巻第二十七第十三抱くさま。「今昔物語に、「頭身の毛太るやる。うに思おえければ」とあすべからざる悪であった。」とは、どういうことか。2弩ばね仕掛けで矢や石を発 射する飛び道具。暫時 未練合理的 憎悪*語弊がある近代の小説「羅生門」原稿近代の小説近代の小説Q「羅生門」「今昔物語集」は、単独で扱うことはできますか。近代以降の文章編紙面紹介『探求言語文化』 のご案内読み取ろう1510151015101055219 羅生門210羅生門 そこで、下人は、両足に力を入れて、い ② ① 下人には、もちろん、なぜ老婆が死人の 21834教科書204・211ページ教科書217・219ページA.それぞれの教材に指導書を用意していますので、単独の教材として扱っていただけます。「文体の変遷」や「伝統と文化」にも指導書があります。定番の「羅生門」は言語文化で学習。「今昔物語集」と連続して学習することで、古典作品が近代文学へ継承されていることがわかります。

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る