毎回,ある職業の人をとりあげて,その素顔に迫ります。

 第12回 栄養士



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 医療関係の職業をこのコーナーで取り上げるのは,ケアマネージャー,看護師に続いてこれで3度目になります。健康管理における食事の重要性に対する認識は,最近とみに高まってきています。今回は,東京都板橋区にある慈誠会前野病院を訪ね,食事管理のプロである管理栄養士のKさんにお話をうかがいました。



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Q まず最初に,なぜ栄養士さんになったのか,その動機をお聞かせいただけますか?

 私の祖父が内科医だったので,幼いころから「体にいい食べ物」の話をよく聞かされていました。私は小さいころ,食べ物の好き嫌いが多くて,少食だったんです。私の母も祖父の影響で,「〜が体にいいのよ」と言って,いつも私に無理矢理いろいろなものを食べさせていました。
 そのころから,漠然と「食物の大切さ」みたいなものが,私の中で少しずつ認識づけられたのかなと思っています。
 栄養士になろうと思ったのは,病気で苦しんでいる人が,栄養をつけることによって,元気に回復できることに感動して,興味をもったことことがきっかけでした。

Q それは,具体的にはどんな体験だったんですか?

 私が中学生のときに,父が病気で入院したんです。そのとき,祖父の指導で,食生活を変えることによって父の体質を改善しようと試みたんです。その結果,父は栄養状態がとても良好になり,元気に退院することができました。私たち家族は大喜びでした。このとき私は,改めて「食事の大切さ」を実感しました。それで人のために人の栄養管理ができるようになりたいと思ったんです。

Q 栄養士さんという職業は,一般の人にはあまりなじみのないお仕事だと思いますが,資格がいるんですよね?

 はい,正確には栄養士と管理栄養士の2種類があります。
 栄養士の場合,栄養士養成施設の認可を受けた学校で所定の科目を勉強し,卒業すれば都道府県知事の免許が得られます。学校は,4年制大学,短大,各種・専門学校などいろいろありますから,自分に見合った学校を探します。
 管理栄養士は,栄養士の資格を取った上で,国家試験に合格しなければなりません。学生のときの履修状況によって,一定期間の栄養士としての実務経験が必要条件となりますので,進学する際にはそのあたりも調べておいたほうがいいと思います。管理栄養士になると,より高度な専門知識と技術を要する栄養管理の指導をおこなうことができます。
 仕事の場としては,病院や福祉施設のほか,官公庁,保健所,学校,一般企業,スポーツ施設など,さまざまな分野があります。

Q この病院では,どんなお仕事をするんですか?

 入院患者様の食事の用意をする作業を給食業務といいます。この給食業務は,今はほとんどの病院が外部の業者に委託しているんですが,この病院では直営でおこなっています。というのは,それだけ個々の患者様に対してキメの細かいサービスをおこなうことができるからです。ですから,この病院の栄養士は配膳から何から,一通りすべての給食業務をおこないます。病院の宣伝をするわけではありませんが,それがこの病院の特色となっています。このシステムのデメリットといえば,私たちの仕事量が増えること(笑)。
 私が所属している栄養科には,調理師1名,厨房職員6名,管理栄養士3名,栄養士3名の計13人がいます。
 ここで,疾病別に栄養基準にあったメニューを作成し,調理作業や配膳,盛り付けなどのすべての給食業務をおこなっています。

Q どのくらいの数の食事を用意するんですか?

 およそ200人分を3食,合計1日に600食ぐらいです。

Q そんなに作るんですか。それを患者さんの状態に応じて作り分けるんですか?

 そうです。おおまかに分けると,一般食と特別食に分かれるんですが,一般食といっても,常食,軟食――3分粥,5分粥,7分粥などです――,全粥食,普通流動食などがあります。特別食のほうは,高血圧食,心臓疾患食,腎臓疾患食,胆石食など,数え上げたらきりがありません。同じ心臓疾患食といっても塩分の量が異なったりしますから,病気の数だけ,患者の数だけ食事の種類があるといってもいいくらいです。
 この病院では,一般食が50食ぐらいで,特別食が150食ぐらいの比率になっています。それを1日3回分で,600食となります。

Q 病院というとお医者さんや看護師さんが目立ちますけれど,厨房の影でそんなに大変なお仕事をなさっている人たちがいたんですね。認識を改めました。ところで,もうちょっとつっこんで栄養士さんのお仕事の内容をお聞きしたいんですが,まず,献立というのはどんなふうに作るんですか?

 はい。疾病別の献立を作成する際には,エネルギー,蛋白,脂質,塩分,鉄分,カルシウム,ビタミン,食物繊維,亜鉛などのさまざまな栄養成分を調整して考えます。ただその際に,患者様個々の病状や嗜好を考えなければなりません。たとえば,同じ炭水化物といっても,それをご飯で摂るのか,パンで摂るのか,あるいは麺にするのか,固形物にするのか流動食にするのか,などといったようなことを,個別に考慮する必要があります。ですから,ただ栄養成分とカロリー計算だけして,機械的に献立を作るわけではないんです。そこが一番苦労するところです。それから,先ほどの一般食・特別食のほかに,イベント食の企画というのもあります。お誕生日会などです。
 献立を作成したら,食材の分量を計算して発注します。

Q それを200人分,1日3回,毎日毎日,となると,想像しただけでも気が遠くなりますね。

 はい。でも,それ以外にも事務的な仕事はまだまだたくさんあるんですよ。患者さんの嗜好調査,病棟訪問,食品衛生管理,個人衛生チェック表作成と管理,在庫食品調査,荷重平均所要量の設定と見直し,栄養出納表や栄養月報の作成,患者食数管理表作成などなど,細々とした仕事がたくさんあります。そのほか,食品安全管理委員会や院内感染委員会の活動などもあります。食事がもとで事故が起こったりしたら大変ですから,細心の注意をはらわなければなりません。
 管理栄養士は,これらの業務に加えて,療養に必要な食事栄養指導をおこないます。これは,主治医の指導のもとで,患者様の生化学的なデータやご本人からの聞き取り調査などを分析し,個人個人の栄養状態を把握して,指導にあたるんです。

Q 個々のお仕事の中身はわかりませんが,大変そうだということはよくわかりました。日々のお仕事の中で,つらいこと,楽しいことをお聞かせいただけますか?

 この病院では,患者サービスの一環として,栄養士が病棟訪問活動をおこなっています。個々の患者様の身体状況に応じた個別栄養管理をおこなうんです。私たちは,「患者接遇」が患者サービスの基本と思っていますので,栄養士と患者様とのあいだで信頼関係をつくれるよう,キメの細かい対応を心がけてはいるんですが,患者様は千差万別です。中にはクレームばかりを――たとえば,魚は築地の魚じゃなきゃ嫌だとか,みそ汁のみそは赤みそでなきゃいやだとか――言う患者様もいます。患者様の摂取状況や嗜好を探り,医療的見地にたって指導し,食事に反映させていくのですが,それをなかなか理解してもらえないときは,つらいです。
 でも,そういう患者様に対しても積極的に病棟訪問を繰り返しているうちに,だんだん信頼関係が生まれて,距離が縮んだときには,ホッとします。
 また,食事栄養指導で,それまで食事に関心がなかった方が興味をもつようになり,「症状が改善して,薬の量が減った」なんて笑顔で言われると,仕事の成果が目に見えるようで,ほんとうにうれしくなります。
 私の顔と名前をしっかり憶えていてくれて,相談をもちかけられるようになったときは,もっともっとこの患者様と会ってお話をしようと思います。

Q 今後の目標をおきかせください。

 私の病院は,先ほども申し上げましたとおり,給食を直営でおこなっていますので,実際のところ病棟に出る時間があまりとれません。日常業務の効率化をはかってもっと病棟に出ていき,患者様のニーズにあわせた個別栄養管理をより確実なものにしたいと思っています。
 それから,最近,生活習慣病が増加していて,その予防と治療のための食事療法が重要になっています。ここぞ栄養士の腕の見せどころ!! じゃないですが,こんな時代だからこそ,専門的に評価・指導できる栄養士が必要であると私は思っています。
 これからの栄養士は,生化学――たとえば血圧,症状,病態――や,医学用語,薬の種類と目的,副作用,人間心理学などの知識に基づいた総合判断力が求められます。
 それらを時間をかけて学び,専門家として医者や患者,国民から信頼を得られるような管理栄養士になりたいと思っています。まだまだ学ぶことは山ほどあります。

<<<<<取材後記>>>>>

 病院といえば,何といってもお医者さんと看護師さんが花形。でもどんな職場にも縁の下の力持ちがいて,支えているんですね。それをつくづくと感じました。Kさんはほっそりした体つきながら,全身からプロとしてのバイタリティを発散させつつ,表面はあくまでソフトに――病院はサービス業なんです,とおっしゃっていました――インタビューに応じて,そして白衣をひるがえして去っていったのでありました。バスの運転士が飲酒運転をする,教師が生徒を買う,警察官が犯罪を犯す,等々,プロ意識のかけらもないような事件が多い昨今,プロ意識にあふれた人と話をするのは何ともすがすがしいものです。

リンク

*社団法人全国栄養士養成施設協会



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