
毎回,ある職業の人をとりあげて,その素顔に迫ります。
第11回 電車を動かすひとびと
|+|+|+|+|+|+|+|+|+|+|+|
わたしたちが普段なにげなく乗っている電車。
駅に行けば,時刻表どおりに電車がホームに入ってきて,発車していきます。
日本の電車は,世界でも「時間通りに電車が走っていること」で有名ですが,いったいどんな人たちが動かしているのでしょうか?
今回は,鉄道会社に勤める車掌さんたちにお話をうかがってきました。
車掌歴半年の新人さんから,30年の大ベテランのかたまで,幅広い経験層の車掌さんたちです。
|+|+|+|+|+|+|+|+|+|+|+|
Q 鉄道関係の仕事に就きたいと思ったのは?
・「子どもの頃から運転手になると言っていたらしい。自分は覚えていないけど,親はそう言っている」(Iさん,入社10年)
・「親や親戚のおじさんに鉄道関係の人がいると,なんとなく影響をうけて・・・。同世代には,そういう人が多いですよ。」(Oさん,入社30年)
・「中学卒業後にどの高校に行くか考えて。鉄道がなんとなく好きだったので,鉄道関係の高校に進学することにした。鉄道関係の高等学校には,鉄道の仕事に就きたいと思っている生徒が入学してくるんだけど,最近は就職状況も厳しくなってきていて,鉄道会社に就職できる人が減ってきいる。自分のときは,18人でこの会社を受けて合格したのがたったの2人だった。」(Fさん,入社4年)
・「大学3年のとき,進路を決めるにあたって。いろいろ見ていくうちに,鉄道に興味を持った。」(Hさん,入社3年)
・「親戚の人からなんとなく入社試験をすすめられ,前の仕事を辞めて転職してきた。」(Sさん,入社2年)
「もともと電車が好きだったのですか?」という質問をすると,「うん,うん」とうなずいた方が多かったです。(必ずしも全員がそうではないようですが。)
もともと男性に大人気の職場ですが,最近の雇用情勢の悪化の影響を受けて,競争倍率も高く入社が難しくなってきているようです。
Q 電車は365日,ほぼ一日中走っていますが,どのような勤務体系になっているのですか?
・「まず乗務員を班にわけます。例えば日月が休みの班・月火が休みの班・火水が休みの班・・・のように。班が基本となってシフトが組まれます。
具体的には,日勤の日は朝6時50分〜20時40分の間乗務します。自分がどの電車に乗るかで出勤時間は決まり,早い電車に乗る人は早く来て早く終わって帰るし,遅い電車に乗る人は遅く来て遅く帰ります。泊まりの日は,12時から17時のあいだに順に出社して22時〜25時まで乗ります。朝は4時半から始まり,昼の12時くらいまで乗ります。
自分が乗る予定の電車は全部きめられているので,それにあわせて動きます。
だいたい一往復したら休憩してまた一往復・・・という感じです。この時の車掌と運転手はペアになって動いています。だいたい平均すると週に2日お休みがもらえることになりますが,人が足りなくて乗務することもあります。」
・「シフトの組まれ方は,車掌より駅員のほうが規則正しいかな?」
全員が一緒に何かをするわけではないので,出社・退社時間もさまざまなようです。この取材のときも,乗務を終えた順にバラバラと集まってきました。
Q みなさん今は車掌ですが,入社してからはどんな仕事をしたのですか?
・「まず駅員からはじめます。今はいきなり入社後に運転手になることはありません。試験を受けて車掌や運転手になっていきます。
試験の内容は,会社の規則を問われたり,適性検査を受けたりします。運転手の適性検査は車掌の適正検査よりも厳しくて,脳波をはかったりして前を向く事に集中できるかどうかを検査されます。
会社によっても違うと思いますが,何年か駅員として駅に勤務した後,若い人は車掌への試験をうけるようにすすめられます。そして試験に受かると車掌になれます。もちろん駅員のままでいたいと思う人もいるし,車掌になりたくても試験に落ちてしまってなれない人もいます。」
これから試験を受けて運転手になりたい,という人もいらっしゃいました。人によっては,監督者(実際には乗務しなくなる)になりたいと思っている人もいるそうです。
これらの試験は,すべて男女平等だそうです。仕事の内容も給料もまったく男女同じ。泊まるときに寝る場所が違うくらいだということです。女性でも上に行きたいと思えば,頑張って試験に受かりさえすれば上にいけるので,女性にはやさしい会社ではないかというお話でした。これからも女性はますますふえてくるのでは,と思っているそうです。
Q 想像と現実のギャップはありましたか?
・「駅員はただ窓口に座っているだけかと思っていたが,とんでもなかった。意外とやることがいっぱいあって忙しい。改札の機械が壊れれば自分でなおさなくてはいけないし。」
・「今は業者に頼んでいるが,昔は駅の掃除を自分たちでやっていた。トイレももちろん。夏はゴミ箱の空き缶から異臭が漂ったりして,大変だった。」
・「思った以上に男のタテ社会。」
・「今のところはギャップ無し。まだまだこれから?」
・「駅員と車掌は思った以上に勤務体系が違っていて驚いた。同じ駅員でも,駅が違えば,たとえ隣の駅でもまったく知らない人。」
・「給料のわりには個々人にかかる責任が大きい。こういうところは看護師と似ているかも。」
Q 責任とは?
・「3人でやる仕事は3人でしかやれない。2人じゃできない。当たり前だけど運転手と車掌が1人2役はできないし,2つの電車を1人の運転手が同時に運転することはできない。乗務員とはそういう仕事。」
・「電車を時間通りに動かすのは,自分たちのプライド。時間通りに動いて当然だし,それが使命だと思っている。勤務にあたっては,5分前・10分前の集合は当たり前。自分が5分遅刻したからといって,5分電車の出発を遅らせることはできないので,遅刻してしまうと,別の人がかわりに乗務して電車を動かさなければならない。1回乗務すると1往復2時間くらいは必ずかかるので,かわりに乗った仲間に負担をかけてしまう。体調管理も同じように責任感のひとつ。おなかが痛いからといって,トイレにこもってしまったばかりに,電車の出発を遅らせることはできない。」
・「時計は毎日必ず乗車の前に全員であわせます。一秒のくるいもない時計で乗務してます。点呼のときに5秒遅れた時計をしていると,怒られますよ(笑)。わたしたちは秒単位で仕事をしてますね。その反動か,プライベートではルーズになるときもあるようですが(笑)。」
Q タテ社会とは?
・「職人さんのような師弟制度が強い。だれにでも必ず【お師匠さん】がつく。悩みごとや困ったことは必ずその人に相談するし,何か失敗をやったときは,師匠さんから注意される。何年たっても自分のお師匠さんには頭があがらないし,逆に自分の弟子はかわいいし,心配でもある。」
これは,実際に働いてみないとわかりにくいかなぁとおっしゃていました。いわゆる会社の上司-部下の関係よりももっと深くて親密なものだそうです。『会社での親子』なようなものだとか。
Q 車掌になってよかったと思うことは?
・「どんな仕事でも同じだろうけど,ありがとうとお客さまに言われた時。例えば,ドアを閉めるのを待っている時に『ありがとうございました』とひとこと言われると,待ってて良かったなと思う。」
・「とにかく乗っているだけで楽しい。鉄道関係の仕事の醍醐味は乗務員でしか味わえない。鉄道会社に入ったからには、電車に乗らなきゃ意味がない。」
・「あたりまえのことだけど、やはり無事故で終わるとほっとする。」
・「ラッシュの中ひとり広い空間にいられること。朝・夕のラッシュ時間に出退勤することがないので,ラッシュの苦しみを知らないでいる。」
Q 逆につらかったこと・いやなことは?
・「自分の乗った電車が事故をおこすとほんとうにつらい。心のそこから乗客のみんなに申し訳ないと思う。事故のときは駅と駅の間で止まってしまったりするので,なんとか乗客がパニックにならないように気を配る。」
・「お客さまからみたら,駅員も運転手も車掌も一緒。同じ会社の人間。自分とまったく関係ない事で怒られたり苦情を言われたりすることが多い。」
・「週末の夜,時間帯が遅くなると,酔っぱらったお客さまが増えてくる。違う会社の定期を改札に入れてしまっているのに『なんで閉まるんだ!』と怒る人もたくさん(!)いる。説明しても酔っぱらっていてわかってもらえない。朝のラッシュ時間には,ストレスのはけ口にされて,文句を言ってくる人もいる。」
・「ドアを閉めるタイミング。昔,自分のお師匠さんに『ドアを閉めることができません』と泣きついたことも・・・。でも,すぐにタイミングがつかめるようになった。」
故意でないにしろ,お客さまをドアではさんでしまった場合,その人が「痛い」といえば事故になってしまうそうなので,ドアを閉めるタイミングは非常に気をつかっているそうです。もちろん駆け込んできたり,わざと足や手をはさんだ人に対しては,会社は責任を負えないそうですよ。
Q どんな人が車掌の仕事に向いていると思いますか?
・「マニアではないが鉄道が好きな人。マニア過ぎる人には、現実の仕事のギャップが大きすぎてできないかも。」
・「どこでも寝られる人。」
・「図太い人。お客さまに何を言われても悩まない・めげないくらいでないとやっていけない。」
・「健康な人。車掌は仕事中は立ちっぱなし。体力が一番!」
・「タテ社会のうえ,班の結束が固いので,協調性がある人。『俺が俺が!』の人はだめ。」
・「基本的なことだけどあいさつができる人。『こんにちは』と言われたら『こんにちは』と自然に応えられるように。車掌や駅員はお客さまに顔をあわせるサービス・接客業なので。」
・「時間にルーズな人でも,入社すれば自然に鍛えられるので,大丈夫!」
<<<<<取材後記>>>>>
取材をしているときも,仲がよく一致団結した雰囲気が伝わってきました。
「自分たちのプライドにかけて電車を時間通りに走らせる」という強い言葉がとても印象的です。彼らのこのプライドがあるからこそ,毎日安心して私たちが電車に乗っていられるのだと実感しました。
バックナンバー
(2002.09)
(2002.10)
(2002.11)
(2002.12)
(2003.01)
(2003.02)
(2003.03)
(2003.04)
(2003.05)
(2003.06)
時事スコープTOPへ
桐原書店TOPへ