毎回,ある職業の人をとりあげて,その素顔に迫ります。
 第八回 映画業界って?



 今回は映画業界をとりあげます。
 宮崎監督の「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞長編アニメ部門を受賞したり,映画業界を舞台にしたドラマが始まったり,何かと最近「映画」に触れる機会が多い気がします。
 私たちが何気なく楽しんでいる映画ですが,ふと考えてみると,あまり実態を知る機会のない業界の一つではないでしょうか?
 今回お話をうかがったのは、映画会社に入って5年目になるWさんです。

Q.映画業界に入ろうと思ったのは?

★ 一番の理由は映画が好きだということです。
 大学生の時はレンタルビデオ店でアルバイトをしていいたくらい好きで,自分にとって映画は生活の一部でした。映画だったら,自分が年をとっても語り続けることができるという自信がありますよ!
 中学生の時ギリシャに住んでいたことがあるんですが、ここでの経験によって「心の豊かさ」について考えさせられたことも大きいです。
 ギリシャは経済的にはEUのなかで足を引っ張るくらい貧しい国ですが,生活の中で文化・芸能に対する比重がとても高く,特に音楽がさかんなんです。「ブズキ」という伝統楽器があって,現代の歌謡曲の中でも普通に演奏に使われているんです。ギリシャの人はこの楽器の音色を聞くと血が湧き踊るみたいで,みんなそれをとっても楽しんでるんです。そういうのを見て「豊かさっていったい何だろう?」と思っていました。
 日本人にとって「ブズキ」みたいに血が沸き踊るものって何だろう?とふと考えたときにわからなくて・・・。じゃあ映画で日本人みんなが楽しめるもの,血が騒ぐものを提供していきたいと思い,映画会社に入りました。

Q.抽象的な質問ですが,映画業界に実際に入って感じたことは何かありますか?

 狭い世界ですよ!大手と言われる会社なのに社員数は500人くらいです。新卒採用も少なく,業界全体で30人くらいじゃないでしょうか?最大手が15人くらい採用して,残りの大手数社が5人ずつくらい採用して終わりです。
 でも,業界内の転職は多いので,知り合い・友人がだんだん増えていきます。友達と仕事をするのもなかなかいいものですよ。今は,合理化の波もあり,仕事と情を切り離すこともふえたみたいですが,その点では映画業界は「人情」で仕事をする古い業界と言えるかもしれませんね。

Q.おおまかに、映画会社の仕事にはどんなことがあるのでしょう?

 大きく分けて四つつの部門があります。
 映画を作る製作部門,宣伝をしたりする配給部門、劇場運営をしたりする興行部門、映画をDVDやビデオにする二次利用・三次利用部門です。業界大手といわれる会社だと,自社でこの4つの部門をまかなっています。
 洋画に関しては,海外の映画会社の支社が日本にあるので,そこと興行部門が交渉をして仕入れます。
 入社したときは映像事業部というところに配属になり、二次・三次利用の仕事をしていました。その後興行部門に配属になって渋谷の劇場に二年,今は有楽町の劇場にいます。


Q.今の仕事の具体的な内容は?

 イメージとしては飲食店の店長のようなものです。
 劇場でアルバイトをしている人たちの管理・教育をしたり,劇場の収入と支出を計算したり,映画のタイムテーブルを作ったり,予告編を考えたり。ほんと,幅広いですよ。
 例えばOLさん向けの映画を上映することになったとします。そうすると,朝早くから上映してもお客さんはそんなに来ません。夕方からあとが来場のピークになります。なので,それにあわせた上演スケジュールを組みます。アルバイトもこの時間にたくさん配置しなければいけません。また,売店ではOLさんの好みそうな食べものを,ということでベーグルを置いてみたり。「OLさん向けのシャンプーのサンプルを配りたい!」という業者の方が営業に来たりもするので,その対応もします。すべては,映画を見に来てくれたお客様がいかに快適に楽しんでくれるか,という視点でやっています。

Q.お仕事のスケジュールは?

 劇場勤務は,完全なシフト制です。
 シフトは上演中の映画のタイムテーブルによります。平日だと9時くらいに出社ですが,土日は上演時間が早いので8時くらいに出社したりします。土日がお休みの仕事ではないです。先も読めず,2週間先のスケジュールがわかったらいいほうです。上演してみたら朝に客足の多い作品だった,というときはシフト変更をしたりしますので。この点はちょっとつらいですね。
 本社勤務は,10:00〜18:15が定時で土日祝日休みの週休2日制ですが,映画の初日のある土曜日には出勤する人も多くいます。

  Q.今の仕事をしていてよかったと思うことは?

 大好きなものに携わっているという実感があることです。
 映画を見るということでは,自社版はもちろん,他社版の映画もたまに公開前に見ることができます。また大手映画会社の社員だと,「日本アカデミー賞会員証」というのがあって,フリーで映画を見ることができるんです!映画を見たり,映画関連の雑誌を見たりすることで,「おっ,頑張ってるな!」とほめられるんですよ。ほんと,映画が好きな人にはたまらない仕事だと思います。
 「ヒットした映画」と一言でいっても,ヒットの中身はそれぞれです。例えば「戦場のピアニスト」は,比較的平日の昼間に時間がある50〜60代の方に大人気で,昼間が大混雑でした。「黄泉がえり」は圧倒的にジャニーズファンの中学・高校生が多く,土日が大混雑でした。「千と千尋の神隠し」は一日中混雑していましたよ。朝は小さなお子様を連れた親子が多く,昼間は50〜60代の方,夕方からは仕事帰りの方,というように一日中いろんな方がいらっしゃいました。「国民的ヒット」と言っても過言でない作品だったと思います。こういうヒットの実態を目の当たりにすることができるのも,この業界にいるからこそ,だと思ってワクワクします。

Q.将来の夢は何かありますか?

 今の劇場現場の経験を生かして,宣伝部に行きたいと思っています。また,映画業界の志望動機でもある「日本人の血が踊るもの」を提供したいという気持ちをずっと持って,いつかそういう作品に携わっていけたらいいな,と思います。

Q.高校生にアドバイスをお願いします。

 高校生の時は,何かにとことん打ち込んでみるといいのではないかと思います。3年間通してやったことを1つ作ってみると,その中でいろんなことが見えてきます。挫折をすることもあるだろうし,自分の好きなこと・嫌いなこともわかるし,周りの人との関係も見えてくるし。大学生の時でもいいから,時間のあるときに物事を深く見る機会を作ってください。
 映画業界には本当にいろんな人がいます。バリバリの体育会系の人もいれば,自主映画を作っていた人もいますが,みんななんらかの形で映画・演劇に愛着を持っています。映画会社はどちらかというと「売り手」ですので,映画を作りたい人は映画会社より製作会社に行ったほうがいいかもしれません。昔は映画会社でも製作部門に異動して徐々に経験を積んでようやく50歳くらいに助監督になる,というルートパターンもありましたが,今はないみたいです。監督になれるという確実な道は無く,たくさん作品を作って世に出し続けるしかないのでは?それで作品が認められれば監督ですから。映画祭も最近は増えてきていますから,出品する機会もありますし。
 映画会社には,世の中のエンターテインメントの流れがわかる人が向いていると思います。自分がどう思うかよりも,世の中の人がこの作品を好きか・嫌いかがわからないと仕事になりません。映画に対する愛着心と,世の中の流れがわかる客観的な感覚を併せて持っていればベストです。

《映画業界基礎知識》
東宝・・・業界最大手。ゴジラ,ドラえもん,クレヨンしんちゃんなど。
松竹・・・「男はつらいよ」シリーズ。
東映・・・京都の太秦撮影所が有名。


《取材後記》
 一番心に残っている作品を尋ねたところ,「たくさんありすぎてひとつにしぼりきれない」というお返事でした。
 今まで会社を辞めたいと思ったことはないそうです。
 好きなことに関連した仕事をすると,自分が感じる"Happy"の度合いも大きいみたいですよ!





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