毎回,ある職業の人をとりあげて,その素顔に迫ります。
第五回 派遣社員



 今回は,「派遣社員」をとりあげます。
 現代は必ずしも「就職する=正社員」ではなく,派遣社員,契約社員,フリーター・・・と,自分のライフスタイルに合わせたさまざまな働き方で,自由に選ぶことができるようになってきています。
 労働者派遣の規制も年々緩やかになってきていて,厚生労働省の発表によると,平成13年度の派遣労働者数は175万人にのぼり,前年と比べると26.1%増加したそうです。こうした派遣社員の増加を受けて,派遣社員のための健康保険組合「はけんけんぽ」も昨年5月にようやく発足しました。
 さて,「派遣社員」とはいったいどんな働き方なのでしょうか。
 派遣社員歴4年の女性に取材してお話を聞いてきました。


♪派遣の基礎知識♪
【派遣先の業務内容について】
 当初労働者派遣ができる業務は13業務に限られていた。
 平成8年に26業務に拡大され,平成11年には一部の業務を除いて原則自由化された。
 現在派遣が禁止されている業務は,港湾運送業務・建設業務・警備業務・医療関係の業務・モノの製造業務などである。
【派遣の契約年数について】
 原則1年。同じ人を同じ場所で1年以上使用すると,派遣先企業はその人を社員として雇用しなければいけない努力義務が発生する。(ただしあくまでも「努力」で「強制」ではない。)
 ただし,専門的な知識が必要な特別に定められている業務や,会社を大きくしたり縮小したりする臨時の事態の場合は最長3年まで,出産や育児のため休業する社員の代替要員として派遣される場合は最長2年までの契約をすることができる。



Qまず,派遣社員になったきっかけを教えてください。

 ★私は10年ほど正社員として働いていました。転職活動をしたときに,たまたま先に決まった仕事が「派遣社員」だったということがきっかけですね。そのときは「正社員で働きたかった・・・」という気持ちもなかったわけではありませんが(笑)。
 高校生にはあまりない経験だと思いますが,本当に仕事を探しているときって,正社員でも派遣社員でも契約社員でも・・・と雇用形態にこだわらず探すことが多いはずです。人によっては「どうしても正社員にこだわりたい!」という考え方を持っている場合もあると思いますが,それだと探しているうちに時間ばかり経ってしまって,そのうちお金もなくなり、食べる物も買えず、生活することが困難になってしまうこともありますよ。
 私の知人には「会社の仕事人ではなく,仕事の仕事人になりたい」と言って派遣社員になった人もいます。決して「○○会社の常識=××会社の常識=世間の常識」ではありません。1つの会社でその会社のプロになるより,特定の仕事のプロとしてその仕事をしていきたいという人には派遣社員はよい働き方だと思います。

Qでは,派遣社員で働く仕組みを教えてください。

ある会社に「必要なとき」「必要な人を」「必要な期間」派遣されるということです。
 働く場所はそれぞれ派遣先の会社ですが,わたしたちは「派遣会社」の社員で,お給料も派遣会社からもらいますし,税金や労働保険・社会保険も派遣会社のほうで手続きをします。
 派遣で働きたいなと思ったら,まず派遣会社に登録に行きます。同時に数箇所の派遣会社に登録してもかまいません。そしてパソコンや英会話などどれくらいのスキルがあるかチェックを受けます。その後どんな仕事につきたいか,お給料はどれくらいほしいか,勤務地はどこがよいか,など勤務条件の希望を言います。するとその条件にあった仕事を担当の人が紹介してくれます。紹介してもらったところで働くかどうかが決まるまで,だいたい一週間くらいです。

Q仕事はどれくらい紹介してもらえるのでしょうか。

 ★自分がどれくらい条件をしぼるかによります。
 例えば,お給料がそこそこもらえて,勤務地もどこでもいいし、仕事はとりあえずなんでもやるし・・・くらいのあいまいな条件であれば,仕事はたくさん紹介してもらえますよ。私は仕事の内容を一番重視して選んでいます。勤務地もできれば家から通いやすいところをと思っていますので,その条件にあったものだけ紹介してもらっています。
 派遣会社にもいろいろあります。いわゆる大きな派遣会社だとオールマイティーにいろんな会社に派遣されます。でも例えばどうしても貿易関係の仕事がしたいとか,出版関係の仕事がしたいとか特定のやりたい仕事が決まっているのなら,その業界に強い派遣会社もあるので,そちらに登録したほうがいいです。またある大手企業の子会社みたいな形になっていて,そこに派遣社員を送り込んでいる派遣会社もあったりしますので,「その会社」で働きたい人にはとってもいいですよね。その派遣会社の特性を知ることも大事ですよ!

Q派遣会社は仕事を紹介する以外のことも何かしてくれるのですか。

 ★ほとんどのところが,パソコンなどの研修制度を設けてくれています。
 無料だったり有料だったり,内容も講師がいたり自学自習だったりそれぞれですが。
 福利厚生もあります。派遣されている期間に限られますが,フィットネスクラブや宿泊施設を割引で利用できたりもしますよ。

Q派遣社員でよかったなと思うことはありますか。

 ★まず1つめは会社選びが安心ということです。
 自分で仕事を探すときには,会社の情報をすべて自分でチェックしなければなりません。今はホームページで調べることも簡単にできますが,それでも得られる情報は少ないですよ。名前の知られていない小さな会社ならなおさらです。私の友人は,ある会社に入社してみたら裏でなにやら高額な自己啓発セミナーの勧誘・運営をしていたということです。会社の表の顔だけではとてもわからなかったと言っていました。その点派遣会社は,派遣先の会社をしっかり調査しているので派遣される側も安心して働けます。
 2つめは会社に入って「しまった!」と思っても,やり直しがきくということです。
 会社は入ってみないと本当にわからないものです。正社員で会社に入社すると,仕事の内容や人間関係,職場環境が自分に向いていないなと不安になっても気軽にやめることはできないので,非常に悩み、重たいストレスになります。派遣社員だと,派遣の契約期間がはっきり決まっているので,あとちょっとだから我慢しようかなと思うこともできるし,どうしても我慢ができないときは派遣会社に相談して別の派遣社員の方に代わってもらうこともできます。
 3つめはいろんな仕事が経験できるということです。あまり仕事の経験がない人は,派遣の仕事を少しずつ積んでいくうちに自分のスキルアップになったり,思わぬ仕事が自分に向いていることを発見できたりすることもありますよ。


Qでは逆に派遣社員で大変な思いをしたことは?

 ★雇用が不安定ということですね。
 派遣契約がだいたい1ヶ月,3ヶ月ごとの更新なので。雇用が不安定ということは収入も不安定という意味です。派遣社員はボーナスがないので毎月のお給料がすべて。今月は何日・何時間働いたかが即お給料として跳ね返ってきます。一定期間以上働けば有給休暇ももらえるのですが,雇用・収入の不安が大きいので,できるだけ休むことなく働いている派遣社員が多いみたいですよ。
 健康保険や年金などの社会保険の手続きも大変ですね・・・。仕事をしていない時期は国民健保・国民年金の加入で,派遣されて仕事をしているときは派遣会社の健保・厚生年金に加入することになりますので。
 また,実際に働いていると,派遣先の会社で「派遣社員=正社員のアシスタント」と考えられているなと感じることもあります。もしかしたら大半の会社が「派遣社員は雑用処理をしてくれる人」そう思っているのが現状かもしれません。
 派遣の仕事に限らないことですが,お給料が高ければ残業が多いとか,職場や人間関係はとっても良く働きやすいけどお給料が安いとか,100%満足して派遣の仕事をしている人はほとんどいないのでは?自分は一番何を重視して仕事を選ぶのかをはっきりしたほうがよいですね。

Q高校生へアドバイスをお願いします。

 ★この不況の世の中なので絶対とは言えませんが,チャンスがあれば最初は正社員として働くことをお勧めします。
 高校生の時に私もアルバイトをたくさんやりましたが,社会人として働くこととアルバイトは,責任感の重さはもちろん,仕事をやりとげたときの楽しさも全然違うことを実感しました。社員として会社に入れば,周りに見守ってもらいながら社会人の基礎を身につけて成長することができます。
 というのも派遣社員は基本的に「即戦力」なのが売りなので,「明日からこの仕事をやってくれ」といわれたらできなくてはいけません。ワークスキルはもちろんのですが、ヒューマンスキルといわれる社会人としてのマナーや周りに溶け込む能力,その他いろんな最低限のスキルはもっていて当然なので,誰も教えてくれません。実際に派遣先の会社でも非常に厳しくチェックされているな,と感じることもあります。なので,正社員の経験を経てから派遣社員になることをお勧めします。
 最近は新卒者向けに研修をする派遣会社もあるので,そういうのを利用することもできると思いますよ。私はその研修はうけていないので,詳しい実体はわからないですけど。
 あとは,自分は何をやりたいか,何が好きか,何が向いているかを考えるとよいでしょう。例えば「私はテレビを見るのが好きだわ」ということでもかまわないんです。私は仕事って「会社や上司」に仕えるんじゃなく,自分が「好きなこと」に仕えることだと思っています。好きなことって努力が苦にならないもの。仕事に限らず,日常生活の中でもおのずと「好き」を手に入れる行動をおこしているのではないですか?その道のりは簡単ではないけれど,きっと楽しみながら努力しているはず。好きなことが仕事に出来なくても,好きなことのために仕事をしていくこともあるんですから!

♪派遣社員のまわりの人々♪
【派遣先の職場の人】 → 入ったあとは同じ職場の仕事人です。
【派遣会社で登録を担当してくれる人】 → 登録時以外はあまり接点はなし。
【派遣会社で仕事を紹介してくれる人(コーディネーター)】 → 契約更新や派遣先での悩みことは全部この人に相談。派遣先の会社の人には言わないこと。

≪取材後記≫
 「派遣社員」とは,自分の腕で稼いでいくのだという強いプライドと向上心を兼ね備えたプロフェッショナルな仕事人だという印象でした。仕事によっては1週間の超短期間の仕事もあるそうです。そんな時も誠実に全力で仕事にとりくみ、次への糧にしていくという強い意欲を感じました。




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