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第 三 信
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アマゾンの根橋です。お元気ですか。
こちらブラジルでも,母の日はやはり大きなイベントで,私の勤める学校でも母の日の集いが盛大に行われました。父の日の影が薄いというのも,日本と同じです。
<ブラジルの商売@(バスの物売り)>
ブラジルでバスに乗っていると,いろいろな物売りが乗り込んできます。両手に2,3本ずつの水やジュースを持って売っている人もいれば,大きな発泡スチロールの箱にアイスクリームを詰めて売る人,小さな飴やお菓子をバラで売る人など,様々。中にはイエス・キリストについて書かれた小さな紙を売る人もいます。
ここで特にユニークなのが,小さな飴やお菓子をバラで売っている人のやり方。彼らは,まず,2,3個のお菓子を乗客の一人一人に配ります。この時点で「いらない」と拒否する人もいますが,多くの人はそのまま黙って受け取ります。それから彼は大声で何事か口上を述べ始める。エンジンの悲鳴に加え,私の乏しい語学力では,残念ながら何を言っているかほとんど聞き取れませんが,お菓子のおいしさや値段,中には自分の出身や身の上話などまでして同情をひこうとしている人もいるようです。
口上が終ると代金の回収。お菓子を買う人はお金を払い,いらない人はさっき渡されたお菓子をそのまま返します。私はいつも配られる時点で断ってしまうため,代金の回収にきたときに「払わないならお菓子を返せ」と言われるんじゃないかといつもドキドキしますが,今までそんなことは一度もありません。基本的に人を信頼しているのでしょう。
信頼…! ブラジルは「人を見たら泥棒と思え」というような治安の悪い国です。家はすべて柵で囲まれて監獄のようだし,ひったくりや強盗が多いので腕時計やネックレスなどをつけない人が多いという国です。バス強盗も頻発しているので,バスに乗っていると,銃を持った警察官が防犯のためによく乗り込んできます(しかし,もし警察官が乗っているバスに強盗が押し入ってしまうと,そこで銃撃戦になってしまうため,市民は「かえって迷惑だ」と感じているようです)。そんな国で,こんな,人の信頼の上に
成り立つやり方で物を売っている…。
口上については,お菓子を売る人に限らず,ほとんどの物売りが前方に立ってとうとうと述べたてます。私は,先ほども述べたように口上の内容はほとんど理解できませんが,それでもこの口上が大好きです。「買いたい人だけ買えばいい」というのとは違って「一人でも多くの人に買ってほしい」という情熱を感じるし,「ただ商品を持ち歩いているだけじゃなく,仕事として売っているんだ」という矜持のようなものを感じるからです。
<ブラジルの商売A(ワークシェアリング)>
日本では,物を買うとき,商品を選んでレジへ持って行き,そこでお金を払えばそれで終わりです。しかしブラジルではそう簡単に買い物はできません。 買いたい商品があったら,まずそれがほしいと近くの店員に言います(ブラジルのお店には店員がうじゃうじゃいます)。すると彼(彼女)がカウンターに連れて行ってくれ,そこで値段と商品番号みたいなものを書いた小さな紙を渡されます。そして,それを持って今度はレジへ行けと言われます。直接レジに行っても,「まずあっちのカウンターに行け」と言われ,受け付けてもらえません。小さなお店でもそうです。文房具店ならレジでお金を払い,商品を受け取ればそれで終わりです。
しかし,家具屋や電器店では更にそこから商品受け渡しカウンターに行かされ,そこでレシートを見せます。そして,そこの店員が,レシートを見てから売り場までその商品を取りに行ってきて,やっと買い物が成立するのです。一つのものを買うのに3箇所のカウンターを回らなければなりません。しかも,私がレジでお金を払っている間に,売り場の人が受け渡しカウンターまで商品を運んでおく,などという気の利いたことはしてくれません。それは,気が利くとか利かないとかいうのではなくて,いわゆるワーク・シェアリングなのでしょう。店員の多さと,最低賃金の安さ(最近260へアイス=約1万400円に上がった)がそれを物語っています。
こちらのワークシェアリングは徹底しています。ワークシェアリングと言うより,「自分の仕事以外は絶対に何もしない」という融通のきかなさと言った方がいいかもしれません。先日,ある日系人の方のお宅にお邪魔して,水を一杯いただきました。私は案外細かい所に気を遣うたちなのでそのコップをゆすごうとしたところ,そのお宅の9歳の男の子が「それは使用人(!)がやるからほっといて」と言うのです。小さな子にぴしゃりと言われたので,ドキッとしました。
ワークシェアリングと言えば聞こえはいいのですが,その底には,階級についての差別意識が厳然としてあるのではないでしょうか。ゴミのポイ捨てを注意しても,「俺たちがゴミを捨てなくなったら,ゴミを片づける人が失業しちゃうよ」と平気で言うようなお国柄ですから。
<ブラジルの商売B(おつり)>
スーパーでの支払いはさすがに日本と同じですが,それでも大きく違う点が一つあります。こちらでは,細かいおつりはもらえません…。
こちらの通貨はヘアルとセンターボで,1へアル=100センターボ(1ヘアルが大体40円なので1センターボは40銭くらい)。おつりのときに,5センターボ硬貨はもらえますが,1センターボ硬貨はめったにもらえません。つまり,4センターボ以下のおつりはくれないのが普通です。1センターボのおつりだと完全に無視され,3センターボくらいになると,おつりのかわりに小さな飴をくれます。多少は罪悪感を持っているということでしょうか。
ただ,反対に9センターボのおつりのときは,10センターボ硬貨を返してくれます。つまり,なんとかしてちょっとでももうけよう,という姑息な考えをもっているわけではなく,単に面倒くさいだけなんだろう,というのが私の観察です。
日本人は,例えば201円の買い物をした場合,必死に1円玉を探して払いますよね。先日,私の友人が日本にいたときのように1センターボ硬貨を必死に探して札と一緒に払ったら,「これはいらない」と返されたそうです。1センターボ硬貨がかわいそうになってきました。
スーパーでは1センターボは無視され,その一方で,バスの中で一つ15センターボの飴を必死で売る人がいる。ブラジルはそんな国です。
2004(平成16)年5月15日
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<筆者紹介> 根橋誠。38歳。愛称「ねばプー」。1965(昭和40)年,長野県に生まれる。1989(平成元)年,北海道大学文学部哲学科を卒業後,桐原書店に入社。編集,営業に活躍するが,その後退社し,日本語学校教師となる。2004(平成16)年1月に,青年海外協力隊の日本語教師としてブラジルに派遣される。
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