
1 スティーブン=ゴマソール氏(イギリス大使)の講義
(1)国際的パートナー関係と国際法
世界は急激に変化しており,外交もそれに応じて変わらざるをえない。3点を強調したい。第1に,グローバルな問題の多くは1国だけの力では解決できない。第2に,イギリスと日本は正式な同盟国ではないが,非常に共通した世界認識がある。第3は,若い人への大きな期待だ。いま,ここ数年間の構造改革の効果があらわれており,さらに独自の外交が必要とされているこの時期に,日本が国際舞台での役割をフルに果たしているということだ。国際的な安全保障における日本の役割について,自衛隊の海外派遣は自然なことだと思う。国際的な安全保障に貢献しようとする日本は,これまで以上に貴重なパートナーだ。世界は,貧困,大量破壊兵器,環境の変化,過激主義や独裁主義などの脅威にさらされている。世界は,そうした脅威に対応できる原則や権威,国際機関,協定をつくりだしてきた。その最初のものが国連だった。日英両国は,国際法の擁護と強化が何よりも大事だという認識を,ともに外交の原点にしている。
(2)政府活動とNGO
イギリスや他のEU(欧州連合)加盟国の大半は,NATO(北大西洋条約機構)を通じたアメリカとのつながりが,広範な地域の安定のためにきわめて重要だと考えている。しかし,アメリカの立場にすべて賛同する必要はない。平和を保つために,自衛隊の優秀な能力が必要だ。国連改革でも,日本が安全保障理事会の常任理事国に入ることを,当然のことだと考える。政府の活動がすべてではない。社会保障,教育,人権,海外開発,国際関係などのあらゆる範囲で,民間活動団体(NGO)の活動が強く求められている。イギリスと日本のNGOが,もっと結びつきを強めてほしい。
(3)若者への期待
若い人たちが外交に果たす役割は非常に大きい。かつて,長州藩の人たちがイギリスに渡ったのは,まだ20代のときだった。同じように,いまの若い人たちが社会にどう貢献できるかを考えていることに,私は深い感銘を受けている。
2 ベルナール=ド=モンフェラン氏(フランス大使)の講義要約
(1)国際秩序づくり
新たな国際秩序が生まれようとしている現在,フランスや日本のような民主主義国家が,世界の発展や安定,自由を確保するには,政治的に強い意志をもち,行動しなければならない。これからの国際社会は,今までより公正で組織化され,連帯感の強いものでなければいけない。つまり,各国がそのなかに自分の居場所を見つけ,社会全体の平和と発展に寄与する自覚をもつ。また,どの国も平等だと感じられるルールづくりが必要だ。
(2)日本の常任理事国入り
国連の安全保障理事会(安保理)の役割は非常に大きく,正当防衛以外の軍事行動を許可できるのは安保理だけだと考える。だから,国際社会に適した形での安保理の改革が必要だ。 日本は国際的に非常に責任感の強い国で,世界の平和に貢献する可能性をもっており,フランスは安保理への日本の常任理事国入りを強く支持している。
(3)アジアでのパートナー
アジア地域で,日本はフランスの重要な民主主義のパートナーだ。近年,フランスの対日直接投資はアメリカについで2位だ。経済交流は活発で,日仏の企業やビジネスマンは効率よく共同事業を進める手段を築いた。日産・ルノーの提携,そのなかでカルロス=ゴーン氏が果たした役割をはじめ,多くの成功例がある。 文化の分野でも両国は良好な関係を維持している。それぞれがまったく違うアイデンティティーをもちながら,対話を通じてたがいをよく理解しあい,価値観を尊重しあうことが非常に重要だ。
《問》
上記の新聞記事要約を参考にして,以下の「日本社会と国際化」に関する設題に答えなさい。
(1)「日本社会」は江戸時代の鎖国をへて開国したが,現在でも国際社会での交流や協力,駆け引き,外交交渉の面での能力は「日本人」といわれる人びとはあまり高くないのではないか,と評価されることがある。反面,政治・経済・産業・文化・芸術など,すべての社会的側面で国際化・国際交流は活発化している。「日本社会」はこれから,国際社会に対してどのように参加し,交流を深めていくのがよいと思うか,論理的に記述しなさい。
(2)いま,世界ではさまざまな場所で紛争が生じている。たとえば,西側世界(アメリカ,イギリスなど)とイラク旧政権・イスラム原理主義勢力の対立,北朝鮮による拉致事件や核武装の問題,イスラエルとパレスティナの紛争などであるが,こうした長い歴史的背景をもった対立や軋轢は,どのようにすれば相互に解決できると考えられるか,また,「日本社会」や政府はどのような役割を担って行動するべきだと思うか,記述しなさい。
(3)「日本社会」は,いま,多民族・多言語・多文化・多国籍・多宗教・多人種社会へと漸次,あるいは急激に進みつつあるようにみられる。かつては「単一民族国家」などともいわれた状態から急速に変化してきた。こうしたマルチ化しつつある「日本社会」が,より価値創造的となり,産業と文化と発達させ,個人の尊厳・人権を充分に保障し,自由と安全を確保するためには,どのような課題を克服するべきだと考えるか,論理的に記述しなさい。
(4)現在,世界経済は自由化の荒波のなかに突入しつつあり,国境を越えた競争は激化の一途を進んでいる。この流れを「グローバリゼーション」とよんでいるが,その実質は経済のアメリカ経済化であるともいわれる。あなたは将来,社会人となったときには,この世界規模の激烈な経済競争の海に船出することになる。ほかならない,あなた自身の固有にもつ価値や能力・好みを生かして,職業生活のうえで活躍するとすれば,どのような面で活躍したいかを具体的に記述しなさい。
《解説》
人類の歴史のうえで,現在ほど短期間のうちに劇的な変化が政治,経済,社会,文化から紛争の形態にいたるまで進んできた時期はない。驚くべき速度の地球規模の社会変動は,グローバリゼーションとよばれたりもする。その本質は,国境を越えた人的,物的(商品・財物),資本(お金)の移動の加速化である。そして,空前の速度で情報化の進展(=インターネットの普及)である。その結果,身のまわりのどれかひとつの商品を取りあげてみても,一国内ですべての製造工程を終了するものは少なくなっている。携帯電話をひとつ取りあげてみても,その正体はモバイル-パソコンの端末であって,アメリカが特許をもつCPUや日本が得意分野とする大容量メモリー,ヨーロッパ諸国の企業の特許群,アジア諸国の部品生産などが組みあわさってできているのであって,まさに「Made in Globe」の状況である。どの国に完成品をつくるアセンブリー-ラインがあるかということは,単に賃金コストの問題だけになっている。
この地球規模の分業体制の現状は,さらに進化していくと予測される。まったく異なる歴史と文化体系,信条や宗教,感性をもつ人びとがともに力をだしあって,世界社会を構成していく姿は麗しく感じられるであろう。人類が理想に描いてきた,いままでにない世界の実現へ,きわめて速い速度で進んでいることが体感できる。反面,別々の世界で暮らしていれば衝突することのなかった人びとが,その出会いのために衝突しあう現状も生じており,しかもその※「文明の衝突」は激化の一途をたどっているようにもみられる。この悲惨な結果を世界に露呈している衝突状況を,なんとか解決しなければ,人類の明るい未来は実現することができない。紛争の当事者のいずれかが打ちのめされ,抹殺されることで実現する「血にぬられた平和」は,望ましいものとはいえない。地球上に生活する,それぞれの人びとの福利を実現することで,世界の調和は実現するべきなのである。これには,地球を鳥瞰する政治システムが必要であって,古いウェストファリア型(主権国家優先タイプの国際政治)では,解決不能かもしれない。
それでは,日本社会はこの現状を前にして,何をするべきなのであろうか。モンフェラン大使の指摘するように,日本社会は,国際社会に対してある種の責任感の強さがあると感じられることがある。それぞれの国には,あるいは,それぞれの人には国際社会への貢献方法や得意分野があると思われる。新しい時代は,新しい人たちがつくっていくのが望ましいのかもしれない。その点でも,教室にいる高校生たちこそ,新しい地球世界の創成者ということができるであろう。教育に関わる業務は,そのことを通して人類の新しい世界を生みだす職務をおこなっているのであり,あらゆる職業において地球の調和実現へのヴィジョンを模索しつつ,新しい世代の育成を進めてくことが重要となっている。
*=S.ハンチントンの著作(1996年)。欧米,中華,日本,イスラム,ヒンドゥー,ラテン-アメリカ,アフリカ,ロシアという,それぞれ宗教などの根源的思考の異なる人びとが融合する可能性はなく,必ず衝突すると述べている。ハンチントンの予言を乗り越える人類の叡智が,求められている。
黒須 伸之