社会

◆甲山事件

 兵庫県西宮市の知的障害児施設「甲山学園」(廃園)で1974年3月、男女の園児2人が園内の浄化槽から水死体で見つかった「甲山事件」で、殺人罪で起訴されている3人全員について、神戸地検は6日、神戸地裁の差し戻し審での無罪判決を不服として大阪高裁に控訴した。

 甲山事件は、起訴からすでに20年が経過している。事件後、兵庫県警は山田悦子・元保母を男児の殺人容疑で逮捕したが釈放、不起訴となった(75年)。しかし神戸検察審査会の「不起訴不当」の議決を受けて再捜査。78年に再逮捕、起訴となった。一審の無罪(85年)、控訴審の破棄・差し戻し(90年)判決などを経て、今年3月24日の差し戻し審判決で二度目の無罪判決が出されるなど極めて異例の展開となった裁判は、さらに長期化することになった。

 事件の重大性や遺族の心情を考慮した控訴とはいえ、被告人の冤罪を訴える弁護団、支援者からは怒りの声が上がっている。被告人の人生を無駄にすることを避けるためにも、憲法第37条でうたわれている「迅速な裁判を受ける権利」に基づいて早期決着させることが望まれる。

◆所沢高校

 3月に卒業生の大半が卒業式をボイコットし、自主的な「卒業記念祭」を開いた埼玉県立所沢高校では、9日に予定されている入学式を行わず、生徒主催の「入学を祝う会」を行うことを昨年11月に生徒総会で決議し、管理職を除く職員会議もこれを承認していた。しかし、内田校長は校長主催の通常の入学式実施を主張して、生徒と学校の管理職とが対立し、生徒を支援する教諭を県教委が処分するなど波紋が広がっている。

 生徒らを支援しようと「東京弁護士会子どもの人権救済センター」の津田玄児弁護士が中心となって弁護団を結成した。9日の入学式には、校長側の埼玉県教委の職員と、警備の私服警官、その動きを監視する生徒会側の弁護士の姿があった。入学式は新入生の約4割が欠席した。

 今回の対立は、「生徒も参加した話し合いで、学校運営を」と求める生徒と、「生徒は話し合いの相手ではなく、指導される立場」とする校長の、2つの生徒観・学校観の対立ともいえよう。

 同校では1990年に、「生徒にも賛否のある『日の丸・君が代』の強制には反対」との決議文と、生徒の自治や自由を明文化した「生徒会権利章典」などを生徒たちが採択した。これに基づき、学校行事の開催は校長、教職員、生徒の話し合いで進められてきた。

◆「心の教育」中教審中間報告

 文部省の中央教育審議会は3月31日、「心の教育の在り方」中間報告書を公表した。

 報告は、中教審として初めて家庭のしつけに深く言及し、家庭の「父親の存在の希薄化」「母子の過度の密着」などの状態を正すべきだとした。

 また、子育てについて、母子手帳の交付や健康診断を通したアドバイスの実施、家庭教育カウンセラーの育成などを提起。企業中心社会からの脱皮を求め、親子の対話や自然体験の機会拡大を唱えた。

 さらに、テレビやゲーム、ビデオの悪影響に言及し、放送番組の有害映像の受信を制限する装置「Vチップ」導入を積極的に検討するよう関係機関に促した。

 暴力事件などで教員が危険な場合は、校長の判断で警察官の訪問を要請するよう促した。

◆Vチップ

 文部省の中央教育審議会は、その中間報告で、「有害情報の排除」のためのVチップ導入を積極的に検討すべきとの見解を示した。Vチップは1996年、アメリカで導入されたもので、親が子供に見せたくないとする暴力や性的シーンの多い番組を遮断するものだ。雑誌やテレビなどメディアが子どもに与える影響は大きく、最近の少年犯罪の多発が、Vチップ導入の動きにつながったといえる。

 Vチップ導入については、実効性に疑問が多く、放送内容の間接的な規制につながりかねないため、反対する動きもある。Vチップ装置は、自動的に過激な暴力やシーンを識別して遮断するものではなく、放送局が番組ごとに「過激度」に応じた格付けをし、親が「見せたくない」として設定すれば機能するものである。しかしテレビ局側の格付け作業については、その基準がはっきりしていない。世論の反発を恐れてテレビ局側が萎縮し、保守的番組に偏る可能性が指摘される一方で、「見るのは視聴者側の責任」として、これまで以上に過激なシーンが堂々と放送されることも考えられる。また、格付けが「子どもの痴的好奇心をくすぐるガイドになる」(服部孝章・立教大教授)との見方もある。

 郵政省はこれまでに、導入の是非を検討する研究会を発足させることを決めた。業界側では、民放連が「業界として海外の実施状況などを実態調査したい」といっているほか、NHKが「少年プロジェクト」を発足させるなど、議論が活発になってきている。

◆インド原爆展でパネル撤去

 ニューデリーで10日始まった「ヒロシマ・ナガサキ原爆展」(広島、長崎両市、インドの科学者団体など主催)で、インド政府の介入により、パネル計6枚が撤去されたことが11日わかった。撤去されたのは、インドを含む「核保有疑惑国」の地図や核実験全面禁止条約(CTBT)署名国一覧など。政府側は、主催者側に「インドの核政策と整合性のない記述は容認できない」と通告し、会場使用の取り消しを示唆したという。訪印中の平岡敬・広島市長は同日、インドのカント副大統領と会い、遺憾の意を表明した。

 同展は、潜在的核保有国と位置づけられているインドで核兵器の惨禍の実相を伝え、核廃絶世論を喚起するのが目的だった。主催者側は「政府の命令は露骨な言論統制」として批判している。

 先の総選挙で発足したインド人民党政権は、核兵器導入に関し、「場合によってはその選択肢の実行を辞さない」としていたが、5月11日には実際に核実験を行い、世界的な批判を浴びている。

◆関釜裁判判決

 第二次世界大戦中、従軍慰安婦や女子勤労挺身隊員にされた韓国人女性10人が、国に総額5億6400万円の損害賠償と公式謝罪を求めた「関釜裁判」で、山口地裁下関支部は27日、元慰安婦3人に慰謝料として30万円ずつ支払うよう国に命じる判決を言い渡した。一方、公式謝罪の請求については「必要性が認められない」として退けた。元女子勤労挺身隊員の請求は、すべて退けられた。原告側は控訴する予定。

 韓国側の関係者らは、慰謝料としての支払額の少なさを批判している。原告の元慰安婦らは「重要なのは日本政府による謝罪」と語った。

 判決は、従軍慰安婦制度を「徹底した女性差別、民族差別」と認定。国会議員が韓国人元従軍慰安婦への賠償措置を定める立法義務を尽くさなかったことを理由に、賠償を命じたが、政府は韓国との間では個人も含め賠償問題は決着済みとの立場を崩していない。

 50件近く提訴された戦後補償裁判で、一部とはいえ原告側が勝訴したのは初めて。元慰安婦が国を訴えた裁判は東京地裁にも6件起こされており、影響を及ぼすと見られる。


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桐原書店

98年6月4日