| |
近頃英語辞書の新刊や改訂が少なく、辞書好きの人は寂しい思いをしていたのではないか。20年以上前、ある辞書編集者から、「英和辞書の改訂には億単位の金がかかり、新刊には数十億が必要なので簡単にいかない」と聞いて驚いたことがある。少子化や辞書離れが進んでいる近年では、辞書の発刊や大幅な改訂にはリスクが伴い、出版社も新刊や改訂には躊躇せざるをえないのだろう。
日本における辞書全体の発売部数は、1997年には1,200万部あったが、2006年には600万部に落ち込んでいるそうだ。この「紙の辞書」離れ現象に拍車をかけているのが、電子辞書の普及で、今後一層紙の辞書は苦戦を強いられそうだ。英語辞書の中で最も売れる英和辞書も、電子辞書を超える工夫が求められていくであろう。
そんな中、久し振りに新刊と改訂が出た。新刊の『ロングマン英和辞典』と、改訂の『ジーニアス英和辞典第4版』である。両辞典について、主に高校の現場にとってどういう辞書かを見てみる。
ロングマンといえば、Longman Dictionary of Contemporary Englishが私たちに馴染み深い。通称LDOCE(エルドス)と呼ばれ、英語教師に愛用されてきた。その会社が桐原書店と共同で新刊を、しかも英英でなく英和辞典を発刊した。そんなわけで発刊前から大いに期待していた。同辞書が売り文句としているのは、1)自然で正確な英語、わかりやすい日本語へのこだわり、2)ノート欄の充実、3)使いやすさの工夫の3点である。
1)の点については、「英語と日本語ともに膨大なコーパスを利用し、現代英語と日本語にこだわった」とある。確かに用例は、古めかしさや、不自然な感じはない。日本語訳もこなれた印象を受ける。2)は、エラーノート、類義語ノート、トランスレーションノート、といった欄を設けて英語学習者が注意すべき点について解説している。3)は、印刷上の工夫が見られる。見出し語は、頻度の高い語及び多義語の主要な意味は赤、その他は青色で印刷されていて探しやすい。また、情報は「…ノート(欄)」に集約させて、本文は例文と訳文にしている点も、「辞書を読む」ことに集中できる。さらに、動詞は他動詞と自動詞を別に掲載せず、使用頻度順に混在させて掲載している点も学習者には親切である。例えば、runの項目を見ると、「走る、出場する、急ぐ」といった自動詞の後に追い込みで他動詞の「経営する」や「提供する」があり、次にまた自動詞の「実施する」が出てくるという具合である。自動詞と他動詞の違いがよくわかっていない学習者にはこの形の方が探しやすい。ここが英和辞典として同辞書の最も画期的な点ではないだろうか。定義もわかりやすい。例えばappreciateの項を見ると、「1…に感謝する、をありがたいと思う、2…の良さがわかる、〈ワインなど〉を楽しむ、を鑑賞する、3…を認識する、理解する」などの定義がのっている。直截的な書き方である。一方、ジーニアスでは、各定義の前に文型表示があって、次に、「1〈人が〉0〈物・事〉を…であることを、…かを」正しく理解する、正しく認識する…2[正しい判断・分析などによって]〈人が〉〈人・物・事〉の価値を認める…」となっている。この書き方は、文型に慣れている者には問題ないが、慣れていない者は困難を覚えるのではないか。ロングマンの用例、Our house has appreciated over 20% in the last two years. われわれの家はこの2年で20%以上価値が上がった。を例にとると、appreciated を〜edとせずにスペルアウトしている点と、用例は従来の英和辞典にありがちなスペース節約上無理して短くしたものは少ない。ただし、自然な日本語をうたうのであれば、「われわれの家」は「私たちの家」ではないかと思うが。いずれにせよ、用例はフルセンテンスを意識して現在の生活に即したものを採用している。筆者は授業で、用例を板書する代わりにdictation を行うことが多い。この辞書の用例はそのまま使えるものが多い。また、collocation にも力を入れている。highly を例にとると、「highly successful/effective/efficient非常に成功した[効果的な、能率的な]highly unlikely/improbable とうていありそうにもないhighly likely/probable 大いにありうる」という記述があって、「自然な英語はこういう風に使われる」ことを示す姿勢が感じられる。研究社の『新英和活用辞典』的な使い方ができる。
もう1点、他の辞書にはない工夫が施されている。それは、主要語彙の見出し語の後にS1〜S3、W1〜W3などの表記があることである。見出し語の直後にS(spoken)とW(written)の表示をつけ、それぞれのレベル表示をしている。これはwriting やspeaking の参考になる。さらに、J1からJ8までの表示もある。これは、JACET(大学英語教育学会)の分類を示したものである。J1であれば、最も頻度の高い1,000語の1つという意味である。国公立大学が英語の試験問題作成上使用語彙のガイドラインにしようとする動きがある現在、タイムリーな試みである。 |
| |
(いけの よしお/中央大学附属高等学校) |
| |
ELEC BULLETIN No. 115 英語展望 2007年秋号 |
|