探求 論理国語 ダイジェスト版
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ぼ5 日ざしの強い土曜日の朝でした。私は、喫茶店の外に置かれた椅子に座って、一人でコーヒーを飲んでいました。向かいの喫茶店はちょうど開店前で、若い女性が、一人で開店準備をしています。全面がガラス張りの店なので、彼女の動作が、ここからもよく見える。椅子をそろえて、テーブルを拭く。窓を磨いて、窓の桟を拭く。額縁のほこりを払い、各テーブルに、砂糖壺つを置いていく……。むだがなく、やり慣れた事柄を次々こなしているといった印象です。でも、どこかこの繰り返しに、耐えがたいというような抵抗感と、かすかな諦めも感じられます。いつしか、視線が引き込まれていきました。カフェの開店準備―準備というものは、普段隠れている、見えない行為です。たとえ見えていても、それは見ていなかったのと同じこと。だってそれは、開店のための行為であって、それ自体に*光が当たるものではありません。行為が終われば、まるでしたことのいっさいが、なかったかのように、あしらわれる行為です。小こ池いけ昌まさ代よカフェの開店準備体験と思索5010体験と思索 〈Ⅰ部〉60

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