探求 論理国語 ダイジェスト版
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グレゴール・ザムザがある朝のこと、複数の夢の反乱の果てに目を覚ますと、寝台の中で自分が化け物のようなウンゲツィーファー(生けにえにできないほど汚れた動物あるいは虫)に姿を変えてしまっていることに気がついた。よろいのように硬い背中を下にしてあおむけに横たわっていて、頭を持ち上げて見ると、腹部は弓なりにこわばってできた幾筋もの茶色い帯に分かれていて、その上に乗った掛け布団を滑り落ちる寸前で引き留めておくのは無理そうだった。脚は全部で何本あるのか、身体全体の寸法と比べると泣きたくなるくらい細くて、それが目の前で頼りなさそうにきらきら震えている。「ぼくの身にいったい何が起こったんだろう。」とザムザは考えた。夢ではなかった。いささか小さめとはいえ、れっきとした人間様の住む部屋が、見慣れた壁に四方を囲まれて、平然としてそこにある。机の上には、包みをほどいた布の商品見本が広げてあった。ザムザは外回りのセールスマンだった。机の上方の壁には、この間雑誌から切り抜いて金箔のきれいな額縁に入れた絵が掛かっている。絵の中の女性は毛皮の帽子をかぶり、毛皮の襟巻きをして、背筋をすっと伸ばし、下腕を肘まですっぽり包んだ重たい毛皮の腕巻きを鑑賞者に向かって突き出すように持ち上げている。「身体と出現」(二七四ページ)の〔参考〕としてカフカ多た和わ田だ 葉よう子こ変かわ身り ― 冒頭部より5み 訳 評論Ⅱ評論×小説ザムザの意識と日常世界との関係は、ある朝に巨大な虫に「変身」して目覚めた後も、当初は人間的であり続けていたが―「変身」冒頭部を参考に、評論「身体と出現」の内容理解を深めることが可能です。2110282

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